【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

To a Young Jazz Musician を読む 第2回

「To a Young Jazz Musician」を読む  第2回 

 

第2回:1.謙虚であること 2003年6月4日 

 

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親愛なるアンソニー 

今日は、君も一緒に来ればよかったのに、と思う一日だった。丁度メイン州へ来たところだ。ここで公演があったのでね。やることは普段通り。ホテルにチェックインして、会場に向かって音響チェック。ホテルへ戻って本番用に着替え。そうそう、ここの名物のロブスターが美味しい店も探した。それから地元の子供たちと、演奏について話す機会があった。高校生の年齢だったから、君よりちょっと年下になる。学校の講堂は人で満員だった。お父さん達、お母さん達、兄弟姉妹に従妹まで、という感じだった。その「地元の子供達」というのは、学校のジャズバンドのメンバーで、満員の人達は、皆、その子供たちを見に来ていた、というわけだ。演奏は良かった。本当に心を込めて演奏しているのが、耳に伝わってきて感動した。また、子供達が頑張って少しでも良い演奏をしようと、集中してメンバー同士音を聴き合っている姿を見て感動した。それから、その子供達の辛い努力の成果が披露されるのを満喫したご家族の皆さんが、その子供達に対して誇りと期待をあふれんばかりに注いでいるのを感じ取れたのが、とても好感をもった。ドラムの子が必見だった。15歳の子。クールに振る舞っているのがひしひしと伝わってきたものだから、僕らメンバーは彼のことを「アイス」と呼んだ。なかなかイイ感じではあったけれど、スウィングが全然様になっていなかった。演奏後、シメに、僕はいつも通りの言葉をかけた。やる気を保つこと、分奏・合奏をしっかりやること、そして練習をさぼらないこと。時々思うのだけれど、はたして「練習しなさい」と言うだけで十分なのだろうか?練習する。で、何を?あの子供達と「話をしていて、誰かがジョン・コルトレーンに質問したことを思い出した。「トレーンは、いつ練習しているの?」彼はこう答えた「何か手についたら、それが練習さ」とね。 

(語句・文法事項:数字は行数) 

1.Today would havve been a good day for you to hang with us.今日は君にとっては私達と出歩くのに良い日になっていたかもしれなかった:仮定法過去完了(would have been) 不定詞(to hang) 4.back to hotel to change for the show本番の為に着替えをするためにホテルに戻る:不定詞(to change) 5.I also had a chance to talk to some kids about playing私はまた演奏について何人かの子供達と話をする機会があった:不定詞(to talk) 動名詞(playing) 9.It touched me to hear them play so earnestly彼らが非常に真心を込めて演奏するのを聴くのは心を打った:仮主語(It touched me) 不定詞(to hear) 知覚動詞+O+原型不定詞(hear them play) 11.in their effort to get betterよりうまくなるための努力をする中で:不定詞(to get) [p.4, 1]feeling of pride and expectation that pours out of families家族たちから注がれる誇りと期待の感情:関係詞(that pours) 2.You should have seen the drummer君はそのドラム奏者を見るべきだった:仮定法過去完了(You should have seen) 3.Trying to be so cool, we called him Iceあまりにクールに振る舞おうとしていたので、私達は彼を「アイス」と呼んだ:分詞構文(Trying to be so cool) 5.I ended up telling 'em the usual; stay encouraged彼らにいつも通りの話をすることで、私はその場をしめた。頑張る気持ちを維持すること:分詞構文(telling 'em the usual) 過去分詞(stay enocuraged) 7.Talking with those kids brought to mind something someone once asked John Coltraneそれらの子供達と話をしたことが私に、誰かがかつてジョン・コルトレーンに質問したことを、気にさせた:動名詞(Talking with those kids) 関係詞・省略(something [that] someone one asked)  

 

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ま、とにかく君は、ひたすら曲を吹きまくり給え。とことん、毎晩でもね。そうすれば、多くの曲数をこなすことになるだろう。プロの奏者たちは経験を積んでいるからこそ、変化に対応できる術を知り、そして多種多様なレパートリーをこなす。しかし君や、メイン週の子供達には、コルトレーンほどの経験値は、まだない。つまり、練習する、というのは、コルトレーンが言う「何か」を練習する、ということなんだ。「何か」とは、サウンドのことだったり、スウィングを磨くことだったり、ソロの組み立てを考えることだったり、ベースラインをじっくり聴くことだって、それに含まれる。肝心なのは、「何か」を、どんな時でも練習することだ。ぼんやりして「何か」が発生するのを待っていてはダメだ。その「何か」は、いつだって君の傍にある。 

(語句・文法:数字は行数) 

12.Play enough, play every night, and you'll get to blow on a lot of songgs十分、毎晩練習しなさい、そうすれば君は多くの曲を吹かねばならなくなるだろう:命令文+and(Play and you'll) ~しなくてはならない(get to) “16.So practice means practice the “something” Trane talked aboutだから練習するということはトレーンが語った「何か」を練習する、ということを意味する:関係詞・省略(the “something” [that] Trane talked about 17.It could be your soundそれは君のサウンドのことかもしれない:仮定法過去(It could be)  

 

 

この最初の手紙で何を書こうか、時間をかけて考えた。そして、謙虚さとは何か、についてにしようと決めた。君は、自分のことを謙虚だと思っているか?真面目に考えたことあるか?僕に言わせれば、謙虚さとは、ジャズミュージシャンにとっては、目標にウソがなく、そして明確なものになる扉であり、それはつまり、学ぶ力の扉、ということだ。詳しく見てゆこう。 

(語句・文法:数字は行数) 

22.I spent time thinking about what we should talk about in this first letter私はこの最初の手紙の中で話すことについて考えるのに時間を費やした:分詞構文(thinking about) 関係詞(what we should) 

 

 

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演奏し始める時には、目標がないといけない。何を演奏するか、なぜそれを演奏するか、どの様に聞かせたいか、そのためのサウンドをどうやって作り出すか。こういったことが頭の中で明確になると、一人で練習しやすくなる。そして結局はそこなんだよ。演奏の仕方をイチから教えることなんてことは、誰もしてくれないからね。 

(語句・文法:数字は行数) 

5.When you have those things clear in your mind, it's much easier to teach yourself君がそれらのことを頭の中ではっきりとさせる時、自分で練習することは遥かに簡単になるだろう:~を…な状態にする(have those things clear) 仮主語(it's much) 不定詞(to teach) 7.that's what you have to doそれが君がしなければならないことだ:関係詞(what you have to do) 

 

僕はこれまで幸運に恵まれてきている。この仕事を始めた早い段階から、偉大なミュージシャン達が周りにいる中で過ごしてきた。アート・ブレーキーもその一人だ。きっと君は僕にこんな質問をするだろう「アート・ブレーキーは何を教えてくれたか?」そしたら僕は「何も教えてくれなかった」と答えるだろう。僕なりに君の質問の意図を解釈してね。「音階を吹いてごらん」とか「そこはソの音がいい」とかいうことは、アートは言わなかった。例えば君がアートの前で吹いて見せたとして、アートはきっとこんな風に言うだろう「もっと荒々しく」とか。あるいはツカツカと寄ってきて「ウソ吹いてらぁ」教わるとしたらそんなことだね。どういう意味か?ウソを吹くな、ということさ。それがアート。それが彼の教え。彼の演奏を聞いてごらん。いつだって最大限の集中力を発揮して演奏している。 

(語句・文法:数字は行数) 

9.I've been lucky私は幸福な状態が続いている:現在完了(I've been lucky) 10.You might ask me, And I'd tell you君はたぶん私に質問するだろう、そしたら私は君に言うだろう:仮定法過去(You might, I'd tell) 17.That's what he taught youそれが彼が君に教えたことだ:関係詞(what he taught) 

 

最近、大学卒のジャズミュージシャンの数が、だんだん増えている。でもこういった学校の多くは、音階や練習曲を弾かせたり、ハーモニーを書かせたり、ということに重きを置きすぎているんだ。君も何度も耳にしたことがあるだろう。ある年配者のボヤキを。「こいつら若造どもは、ただ速いだけで、意味のないことしか弾けやしない」とね。こんなことがあると、学校でのジャズ教育の価値を疑問視する人が出てきてしまう。本当は、その学校それぞれの価値を疑問視するべきなのにね。「技術的な課題を幾つかこなしきることが、実際の演奏というものだ」と、子供達は間違えた教育を受けて信じ込んでいる。小手先の技術の方が中身より大事、というわけだ。多くの学術論文のように、大した中身もないのに難しい言葉ばかり並びたてて、結局「何それ?」の一言で片づけられてしまう、みたいなね。 

(語句・文法:数字は行数) 

20.jazz musicians graduating from universities大学を卒業したジャズミュージシャン達:現在分詞( musicians graduating) 22.How many times have you heard of an older cat grumblingある年輩のジャズファンが不平を言っているのを何度も聞いたことがあるだろう:強調構文(How many times) 現在完了形(have heard) 知覚動詞+目的語+現在分詞(heard of an older cat grumbling [p.6,1]That leaves some to questionそれは何人かの人に質問をさせることになる:不定詞(to question) 2.when they should be questioninig 彼らは問うべきなのに:仮定法(should) 3.Kids are being misueducated into believing子供達は間違えた教育を受けさせられて信じ込んでしまっている:受動態・進行形(are being eduated) 5.piles of big words around small iedeas that add up to one response結局ひとつの反応になってしまう小さな考えの周りにある山積みの大きな言葉:関係詞(that add up)  

 

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もし君が機械工学を学ぼうと思えば、大学ではまず何らかの基礎・基本的な専門技術の知識から入ってゆくだろう。ジャズの大学では、意味のない音階だの和声だの速いパッセージの例だのを集めて、いつまでもクドクド論じるようなことは、応用発展段階のカリキュラム構成には組み込まれない。こういった小手先の技術を学んでも、音楽家としての心構えとか、個々の向かうべき方向性とかを育むために、君がたどり着かなくてはいけない段階には行けない。君が心に抱くものを進化させることもなければ、君ならではの力を発揮させることもない。 

(語句・文法:数字は行数) 

7.If you wanted to study engineering, certain basic, fundamental levels of technical expertise would just be assumedもし君が機械工学学びたかったら、幾つかの基本的かつ土台となるような技術的な専門知識を学ぶことががまさに想定される:仮定法過去(if you wanted expertise would just be) 9.the meaningless spools of scales, chords, and fast runs that are belabored ad infinitum いつまでも細かいことを論じられている音階や和声や速いパッセージの無意味な渦巻き:関係詞(that are)  

 

実は、これは君自身も無意識にはまるかもしれない、様々な状況についても非常に密接な関係がある。自分ならではの力を、どのように発揮するか?人間関係を作ろうとする場面では、大抵、君がわがままに振る舞うことなく、どのようにそこに加わってゆこうとしているかを、言葉に出して約束することが求められる。ジャズでは、「自分ならではの力」とは、君の持つ独創性のことだ。君が楽器を通して苦労して自分のものにしてきた成果を、まとめあげ、クリアな表情をつけ、そして音にする。この時、「自分ならではの力を発揮した」ことになるんだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

15.any situation in which you find yourself君が気付いたらそこにいるというあらゆる状況:関係詞(in which you find) 17.to address the issue of how you participate as yourself without being selfish君がわがままであることなく自分らしくどの様に加わるかを宣言すること:不定詞(to address) 疑問詞節(how you participate) 分詞構文(without being selfish)  

 

学校の授業で、ある作品に取り組むことになったとしよう。君はその曲を何千回と繰り返し演奏するわけだ。そのうちウンザリして「ったくダメだこりゃ」などと呟くことことになる。それが成績に関係があるとなると、2・3年はそれをすることになる。ひょっとしたら卒業してもなお僕の年になる位までまだ続くかもしれないけどね。果てしなく続けるのもいいけれど、そうでなかったら、他をあたるのもいいだろう。「他」とは「発展性」のことだ。発展性は無限だ。だからこそ、音楽は永遠の命を持っているんだ。リズムセクション一つをとってみても分かる。テンポを上げ下げするもよし、ソロを際立たせるもよし、グルーブを変化させるのもよし。そしてソリストである君は、彼らとセッションをする中で、君自身も様々なことができることに気づくだろう。ドラム奏者とやり取りするもよし、転調するもよし、やれそうなことは数限りない。 

(語句・文法:数字は行数) 

23.You'll be so tired of doing it that everytime you gotta do it again, you'll say to yourself君はそれをするのに疲れすぎてしまい、毎回それをやらねばならない度に君は自分に言うようになるだろう:so~that節(so tired [that] everytime) [p.7.1]you've done it for two or three years now君はここまでで2・3年はそれをしたことになる:現在完了(you've done) 4.That's why the music lives onそれが音楽がずっと生き続ける理由だ:関係詞(why the music lives on) 6.And you, playing with them, you realizeそして君は彼らと演奏する中で、気付く:分詞構文(playing with them) 7.you realize the different things you could do君は君ができそうな様々なことに気づく:関係詞・省略(things [that] you could) 

 

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折角独創性があっても何もしない、なんてことにもなりかねない。そうしたら、僕の年になって、世界中へ演奏に出かけても、1940年代終盤からずっと演奏され続けている、目新しさのない基本パターンにしがみつく人たちと一緒になることになる。メロディは、というと、ダラダラした音の羅列、これではソロは長くかったるくなる(本当は魅力的に吹ける力があっても)そしてベースのソロが続く、おなじみのパターンだ。皆、何の変哲もない吹き方を自分独自のやり方に変えて演奏するんだ。今この瞬間から始めよう。平凡さに甘んじるな。君だけの表情をつけるために、音楽の無限の自由さを発揮するんだ。自分を抑えるな。使い古されたやり方を、いつまでも一晩中、同じパターンで吹いていたらダメだ。君の創意工夫、独創性を使いこなしてみろよ。 

(語句・文法:数字は行数) 

12.with people who play the same basic form that has been played since the late 1940s 1940年代の終わりからずっと演奏されている同じ基本形式を演奏する人々と一緒に:関係詞(who play that has been) 

 

それには、君の能力や持ちネタを、いくつか更に発展させないといけない。能力やネタがあって、自分が挑戦しようとしていることを理解しているなら、演奏中は自由に試したらいい。初めのうちはヒドイ演奏になるだろうけれど、自分の考えをしっかり持って取り組んでいるのだから、やり遂げることになるだろう。他との違いを出そうとするなら、他とは違うことをやらないといけない。それにはまず、発想の転換だ。ちゃんと自分が納得するやり方でね。 

(語句・文法:数字は行数) 

22.when you understand what you're trying to do君がやろうとしていることを君自身が理解するとき:関係詞(understand what you're) 24.you're working those things out君はそれらをやり遂げることになる:近い未来の時制(are working out) 25.It's important to realize that in order to be different, you have to do something different他と差異をつけようと思うなら君は何か異なることをする必要があると気づくことが重要だ:仮主語(It's important to) 不定詞(to realise) 

 

 

次回、第3回は、1.The Humble Self(謙虚であること)2003年6月4日の、後半部分を見てゆきます