【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む  第14回

「To a Young Jazz Musician」を読む 

14回:10喜びに心は踊る 2003年9月28日  

 

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親愛なるアンソニー 

ずい分時間をかけて色々な問題について話をしてきたね。これらの人生哲学のおかげで、脳ミソがイラついていることだろう。練習中は、いつも、あそこがダメだ、ここが良くない、ということばかり考えてしまう。必ず自覚しよう。「これはいいぞ」と思う気持ちが、演奏しようという気持ちを保つ、ということを。「これはダメだ」と思うものに目を向け続けるなんて、わざわざしないだろう?何かしら「これはいいぞ」がないといけない(ドラムのハーリンがいつも言う「ハエというのは、クソと同じように、ハチミツにもたかってくる」ということ)。ジャズのことについて言うなら、練習し上達してゆく上で、やるべきこと全てを通して、君がジャズのことで追い求めるモノは、いつだって「これはいいぞ」であるべきだ、ということ。それは、「上手になった!」と気付くこと。自己表現力に、演奏感覚に、サウンドに、君自身を反映し客席へ届ける力に、「上手になった!」を見出すことだ。見出せれば、素晴らしい気分になる。気持ちは昂り、嬉しくなって、自分が感じること、見えること、あるいは以前そう経験したことの数々を表現することができるようになる。その大半は、君にとっては未知の物であり、別の時空からやって来る。そういったことを伝える。楽器を通して音に反映させる。そうすれば、喜びもひとしおだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

1.We spent so much time talking about problems, all these life philosophies roiling the brain私達は多くの時間をかけて様々な問題について語り合い、これら人生哲学が脳ミソをいらだたせた状態にある:分詞構文(talking roiling) 5.You're not going to keep pursuing something that tastes nasty; it's got to have some sweetness somewhere in it君は不快な味のするものを追い求め続ける予定など立てない。それはその中に必ず甘美さを含まなければならない:予定(You're going to) 動名詞(pursuing) 関係詞(that) 現在完了形・慣用句(it has got to) [p.110,1]That's an unbelievable feeling, an uplifting of joy to be able to express the range of what you feel and see, have felt and have seenそれは素晴らしい感覚であり、様々な君がいま感じたり見たり、これまでに感じたり見たりしたことを表現できるようになる喜びを高揚させるような感覚だ:同格(feeling, an uplifting feeling) 不定詞(to be able to express) 関係詞(what) 現在完了(have felt and have seen)  

 

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ミュージシャンとしての喜びの源は、沢山あるよね。まずはお客さん達。君が様々な生活の場の中で見つけた喜びを乗せた演奏を聴きに来てくれている。それとバンドのメンバー達。君のすぐ傍で、彼らのみつけた喜びを乗せた演奏を知っている君の仲間達だ。そしてジャズの道を極める手助けをしてくれる全ての人達 - 先輩ミュージシャン達からファンの子供達、奥さんや彼女まで。彼らがしてくれていることは、必要なことなんだ。そして他の何を置いてもよく知るべきことなんだ、と認識しなくてはいけない。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

8.You know, a musician's joy comes from a lot of sources; the people who come to hear you project your own joy in cities and towns, the bandmates, the brothers who project their joy right beside you; and all the other good people who help form the shape of the road - from the older musicians, to kids, to womenいいか、ミュージシャンの喜びというものは多くの源からくる。君を聞きに来る人たちは都市や町に在る君自身の喜びを反映させる、君の丁度すぐ傍で自分達の喜びを反映させる楽団の同僚、仲間達、そしてジャズの道を極めるのに援助してくれる善良な人々:年配のミュージシャン達、子供達、女性達:関係詞(who)  

 

全国(アメリカ)の、比較的小さな街で本番があると、お客さん達が終演後に何時間も並んで待ってくれて、サインが欲しいだの、我が子の音を聴いてくれだのと、有り難いことに言ってくれる。そんな時いつも思う。こんな小さな町の人達までもが、僕達のことを知ってくれているんだなあ、とね。こういったことは、小さな街、あるいはサクラメントオレゴン州の州都)のような程よい規模の都市で、平日ど真ん中の水曜日の夜に、などという状況でも、チケットが売り切れだったりすることもある。ツアーで到着してから帰るまでの間中、食べ物ややお菓子のパイやクッキーを差し入れてくれたり、食事の用意をして下さる方達にも会う。町の名物グルメを、あれこれと勧めたいと思ってくださっている。ジャズは人を盛り上げる。いつまでも大切な思い出にしたい事との出会いの連続だ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

15.When our band plays in towns across the country, people will sometimes stand in line for hours after the show to have us sign autographs or listen to their kids play私達のバンドがこの国中の町々で演奏する時人々は時々公演の後何時間も並び立って私達にサインをしてもらったり彼らの子供達が演奏するのを聴いてもらったりする:不定詞/使役動詞+O+原型不定詞(to have us sign) 使役動詞+O+原型不定詞/知覚動詞+O+原型不定詞(have us listen to their kids play) 

 

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数年前、トルコのイスタンブールで公演があった。ドラムのハーリン・ライリーと、あと2、3人が連れ立って、シンバルの工房を見学に行った。工房の外で皆でたたずんでいた時のこと。ご近所の男性が一人、立ち喰い処で、僕達がアメリカ人だと気づくと、近寄ってきて、宗教の話をしたいみたいな、要するに野次馬だね。通りの子供達がハーリンを指さして、マイケル・ジャクソンだ、とヒソヒソ言っていた。当時はトルコでは、アメリカ人と言えばマイケル・ジャクソンくらいしか知られていなかったからね。子供達の間ではね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

6.Kids on the street started whispering about Michael Jackson, pointing at Herlin, 'cause all they knew was Michael Jackson at that time通りにいた子供達はハーリンを指さしてマイケル・ジャクソンについてヒソヒソと話し始めた、なぜなら彼らが知っているのは当時はマイケル・ジャクソンだけだったからだ:動名詞(whispering) 分詞構文(pointing) 関係詞・省略(all [that] they knew) 

 

そこは低所得者向けの団地の近くだった。女の子が一人、バルコニーにたたずんでいた。多分、13,14歳というところ。近所の方達が言っていた「あの娘は英語を話すよ。学校で習っているからね」。ということで、その娘は片言の英語で僕達に話しかけると、一旦その場から立ち去った。日が暮れ始めていた。少し経つと、その娘はまた現れた。通りへと降りてきて、やってきたその手には、何と、トルココーヒーを僕達のために用意してくれていた。しかもそれは、間違いなく、彼女の家にある一番上等な銀食器に淹れてあったんだ。コーヒーを注ぎ、僕達がご馳走になっている間、そこに控えていてくれた。心のこもった優しさが溢れていたよ。魂のこもったこの出来事は、演奏にも通じるものがあった。自分の持っているものを、他の人に差し出す。気に入ってくれるかどうかわからない。でも差し出す。この娘がしてくれたようにね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

13.After a moment, she reappeared, coming down to the street with some Turkish coffee for us in what had to be her family's best silverware暫くした後彼女は再び現れ、間違いなく彼女の家で最高の銀食器に淹れたトルココーヒーを私達のために用意して通りへ降りてきた:分詞構文(coming) 関係詞(what) 推測(had to be) 

 

さて、それからバンドのメンバー達。彼らは全員、スゴイ連中だ。スゴイ連中と四六時中行動を共にすることは、その喜びも同じようにスゴイ。リズムセクションを紹介しよう。ハーリン・ライリーだろうって?彼とは長い付き合いだ。ベースのカルロス・ヘンリックッス。電光石火の男。ピアノのエリック・ルイス。一流の大先生。融通無碍の創造力の持ち主だ。 

 

(訳注) 

22.He's from the Earth直訳:彼は地球の出身だ 

ウィントンとは長年の付き合いであること、映画「The Man from Earth」のタイトルから、この様な訳を当ててみました。 

 

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それから、トロンボーンセクション。アンドリュー・ヘイワード。大きくてゴキゲンなサウンドは、魂を丸ごと癒してくれる。機敏で多角的な男、ロン・ウェストレイ。都会的な洗練さと、サウスカロライナの田舎魂の二刀流。地元での凱旋公演はすごかった!街の人皆が来ていた。南部のこのあたりの出身であるミュージシャンのファンには、僕はお目にかかったことがなかった光景:白人も黒人も関係なく集まっていた。すごい体験だった。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

6.I had never seen that for a musician from that area of the South私は南部のその地域の出身のミュージシャンにとってのそれを見たことがなかった:過去完了(had never seen) 

 

サックスセクション。テッド・ナッシュ。彼と僕は同じ頃ニューヨークへやってきた。僕達の父親は二人ともミュージシャンだ。彼には、僕の一番上の息子達と年が同じくらいの娘さんが二人いるんだ。一点の曇りのない音楽家としての心意気、そして、人付き合いについても、相手をそのまま受け入れて仲良くなれる、という能力。これで皆から愛され、リスペクトされている。それとビクター・ゴインズ。大胆・怒涛の演奏。彼とは小学校のバンド以来の付き合いだ。当時8歳。共に楽器を吹いていて、今は40歳を少しこえて、共にスウィングし演奏を続けている。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

12.The purity of his musicianship and his ability to relate to people for who they are - that is the thing we all love and respect about him音楽家精神の純粋さと人々と彼らのあるがままの状態で関係を持てる能力、それは私達全員が彼を愛し彼を尊敬するものだ:不定詞(to relate) 関係詞(who) 関係詞・省略(the thing [that] we) 16.We were eight years old, playing together, and now we are in our early forties, still swinging and playing together私達は当時8歳で共に演奏していて、そして今私達は40代の初めで、今でもともにスウィングし演奏してる:分詞構文(playing swinging) 

 

自分以外のミュージシャン達と一緒に演奏することは、かけがえのないことだ。こんなにも特別なものであるその訳は、彼らの年齢と出身が様々であることが挙げられる。ジョー・テンパリーなんかもそうだ。彼は70代。おそらく意識の高さはバンドで一番だろう。いつも一番最初に現れて、ウォームアップをし、僕に電話をくれてこう言う「儂のパート譜から先にくれないか」とね。ジョーは誇り高い男だ。多くの意味合いで、バンドの精神面での支柱だ。音楽を大切にする姿勢を僕達はリスペクトしている。彼の出身はスコットランド。いい加減さとは無縁だ。彼が演奏するのは、あくまでも音楽、それがジョー。誰にも崩されることは無い。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

18.The thing that makes it so special is that they range so widely in age and the places they hail fromそれを特別にするものは、彼らが年齢と彼らが出てきた場所がとても幅いろいことにある:関係詞(that) make+O+C(makes it so special) 関係詞・省略(the places [that] they) 

 

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こうして、仲間を愛することを、自分から望み、そして良い関係を作ってゆくことが必要だ。なぜなら、君一人の力ではどうにもならないのだから。僕はそのことを、マーカス・ロバーツから学んだ。一人ではできない。ジャズを演奏するということは、人との取り組みの中では最も人間関係の良好さが求められることだ、と言える。相手との距離は、物理的にも精神的にも、そして志向の面でも、近くなる。そしていつもハマってゆく。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

5.Playing this music can be the most intimate thing you ever do with another manこの音楽を演奏することは他の人と一緒に行う物事の中では最も親密なことだと言える:動名詞(Playing) 関係詞・省略(thing [that] you) 

 

人生とはこういうものだ。そして僕達はそれにハマってゆく。身の回りの人々、そしてこれから出会う人々に、喜びを見出してゆく。年上・年下のミュージシャン達、様々な楽曲、人々の奏でるサウンド、コンサート会場へと入って行く人々が握り合う手と手、自分の楽器を高らかに鳴らす子供達の立ち姿、それを撮影する親御さん達。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

11.The way people hold hands entering a concert人々が演奏会に入ってゆく時に手をつなぐ方法:関係詞・省略(The way [that] people) 分詞構文(entering) 

 

君はこれまで人生で経験してきた全てを覚えているだろう。僕も覚えていることがある。レッスンを受けに来た子供達の様子だ。みんな緊張していた。上手くなるかは彼らの思いのままだ。マーカス・ロバーツの最初の本番後の、彼とのやり取りは今でも覚えている。「さて、本番おわった~」。僕は言った「心配しないで、年末までに数え切れない位こなしてゆくから」。これって正に、ジャズのこと、そのものだよね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

18.By the end of this year, man, we'll play so many gigs you won't remember the count今年の終わりまでには、おい、私達はあまりに多くの本番をこなすから君はその回数を覚えていないだろう:by~までには→until~までずっと(By the end) so+C+that節(so many gigs [that] you won't) 

 

偉大なベーシスト、ミルト・ヒントン。本当に素晴らしい人だった。ウチの若手の、まだ10代のベーシストで、カルロス・ヘンリウスというのが、ミルトに会いたい、と言うので、僕はあと二人若手でバリバリのベーシスト、レジナルド・ヴィールとロドニー・ウィテカーを連れて車を走らせた。クイーンズ地区へ向かう道で迷ってしまい、結局到着したのは遅い時刻になってしまった。ミルトの奥様のモナさんが迎えてくれたけれど、「みんな、ちょっと着くのが遅過ぎちゃったわね。ミルトは寝てしまって起きないから、音を聞かせてあげるというのはちょっとね」。ところが、僕達に気付いたのか、ミルとは目を覚ましてくれたんだ。ベースを取り出すと、彼自身抑えが効かないと言わんばかりに弾きまくってくれた。ミルトは本当にスゴイ。一緒に来た3人もミルトと一緒に弾き出した。ミルトはベッドから出てきた。皆、叩きつけるように弾きまくり、歓声を上げた。ひとしきり演奏し切ったところで、ミルトは疲れて楽器を置かねばならなくなった。ミルトが亡くなったのはその出来事のすぐ後だった。90歳だった。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

[p.114,2]I don't know, you all might have come over too late分からないけれどあなた達全員くるのが遅すぎたかも知れない:仮定法過去完了(might have come) 

 

マーク・オコーナーは我が国の偉大なバイオリニストであり、フィドラー(フォークミュージックのバイオリン奏者)であり、作曲も手がける。ある日の夜、僕達バンド一行は、彼のとある友人宅を訪れた。彼の二人の息子さん達、フォレストとゲイジもそこに居た。食事の後、彼は楽器を取り出すと、何曲も引いて聴かせてくれた。子供の頃、先生たちから教わった曲も弾いてくれた。息子さん達が彼を見つめていた姿を、君も見るべきだったなぁ。で、次の夜、彼は僕達とステージを共にした。本番中、セットしてあったマイクが落ちて、床に転がってゆくのを彼は目で追っていたけれど、演奏の手を離せないとして、演奏を止めなかったんだ。これは正にジャズのこと、そのものだよね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

14.He played a tune he had learned from his teachers when he was a boy彼は彼が少年だった時に先生から習った曲を弾いた:関係詞・省略/過去完了・大過去(a tune [that] he learned) 

 

ジョン・ヘンドリックスはジャズボーカリストのレジェンド。80歳かそこらの彼は、僕達がオハイオ州で本番があった時、自分で2時間車を運転して駆けつけてくれた。2時間半の本番をこなした後、夜遅くにジャムセッションへと移動、僕達はぐっと体を起こして、彼をじっと見ていた。朝の3時半とかだったんじゃないかな。そして彼らは僕の方を見て、「さあ、もう1曲行こうぜ!」これは正にジャズのこと、そのものだよね。もう1曲行こうぜ。彼はいつまででも歌っていたそうだった。その後、彼はまた2時間車を運転して帰ったよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

19.Jon Hendricks, the legendary jazz vocalist, at eighty-something years old, drove two hours to get to a gig we did in Ohioジョン・ヘンドリックスというジャズボーカリストのレジェンドで80歳かそこらの人は、僕達がオハイオ州で行った本番に辿りつくために2時間車を運転した:不定詞(to get) 関係詞・省略(gig [that] we) 

 

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僕達が感じた喜びを伝えたミュージシャン達、中には、ミルトやスイーツのように今はいないミュージシャン達、彼らに伝えたことを思い返している。どこかで、誰かが僕達とスイーツが一緒に写っている写真を持っていないだろうか。それから、スイーツが、いつだったか僕達がベイシーの曲のリハーサルをやっている時に来てくれた時のことを思い返している。後方の、トランペットセクションの席に座って、各パートを自ら口ずさみ、そして色々なミュージシャン達の話を聞かせてくれた。彼らの作品のこと、奥さんの浮気の現場を捕えたこと、様々なフレーズを演奏するのに使ったコトバ(吹き方)。話を聞いているうちに、僕達はまるで1930年代からタイムスリップしてきたカウント・ベイシー楽団の一員になった気分だったよ。1930年代といえば、そう、あの世界大恐慌のあった時代だ。そんな時代の記憶、そしてその頃の音楽の思い出が、いつまでも続いていた。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

7.He's sitting back there in the trumpet section, singing all the parts, telling stories about different cats彼は後方のトランペットセクションの処に座り、各パートを全て口ずさみ、様々なジャズミュージシャン達についての物語を話した:分詞構文(singing telling) 

 

また別の話。オーネット・コールマンの家に行った時のことだ。夜中の11時に家に着いて、そこから朝の4時まで吹きまくってしまったよ!いつまでもそこに居たい気分だったね。 

 

演奏活動をしている喜びは、君自身の人間としての経験の中に芽生えてくる。のことだったりね。そう、そこは外せない。何せそれだって喜びの一部、いや、もしかしたらそれが全てかも、と言うくらいだから。音楽の修行道は孤独だ。そして音楽とは、非常にロマンチックであり、快楽の追及でもある。音楽を通して、君は目に見えないものに形を与えてゆく。心の干・満や上昇・下降、色恋沙汰も多くある。音楽の演奏というのは、性的エネルギーを沢山費やすものだ。そして、そういうのは、ゆっくりな曲ばかりではない、ということだ。男(オス)として、女(メス)として、それぞれのエネルギーを沢山費やすものだ。僕達男のミュージシャンにとっては、人生で最高のギフトは、女にまつわることかもね。別に性的なことばかりを言っているワケじゃないぞ。これは大事なことなんだ。何せそれは、音楽の一部であり、人生を紐解くことの一部であり、もっと単純に言えば、物事がバラ色になるものだから。もっとも、正しく「バラ色だけれど裏腹な闇」があったりもする。それが分かっていなければ、何も演奏なんてできないよ。 

 

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ミュージシャン達にとっての困難、それは家庭と仕事とのバランスだ。これはほぼ不可能と言っていい。四六時中頑張ろうと思うなら、どちらかを選ぶか、それとも奥さんを納得させるか。まぁ、簡単じゃない。でも中途半端では一流になれないし、起こり得ない話だ。プロなら皆がしてきた選択だ。中途半端は有り得ない。選べるものならそうしたいが、多くは諦めて、家庭を選んだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

13.That's a choice we wanted to makeそれは私達がしたかった選択だ:関係詞・省略(a choice [that] we) 不定詞(to make) 

 

僕はこういうのは「取引」だとは思っていない。ジャズでやっていこうと思ったら、全てを犠牲にすることになるだろう、ということは自覚していた。そして実際そうした。知っての通り、僕は今、子供達をツアーに同行させている。彼らにとってっは異常な状況だ。でも後になって、きっと貴重な体験をした、と振り返ることになる。僕としては、意識して、これが異常な状況だということを、彼らが理解できるようにしてあげている。敢えて、隠すようなことはせずにね。僕の子供達、そして他の連中の子供達を同行させること、それ自体は、喜びがそこに在る。というのも、僕達もそうやって育ってきたからだ。ツアーに同行したわけではないけれど、僕達の親も音楽をしていた。音楽は生活の一部と言うやつだ。ミュージシャンの世界では、甘やかしは有り得ない。割り切った考え方をする。ついてこれないなら、ついてこれるようにしないといけない(ヒドイもんだよな)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

19.I try to let them see the craziness of it all私は彼らにそれ全部の異常さを見せようとしている:不定詞/使役動詞+O+原型不定詞(to let them see) 

 

(117ページ) 

 

僕の子供達が、僕以外のメンバーと知り合いになってくれることは、とても好ましいことだ。ハーリン・ライリーやウィクリフ・ゴードンといった連中と、僕の子供達が顔見知りなんて、スゴくないか?二人の子供達の内の一人は、まだ小さかった頃、ジョー・テンパリーがバスクラリネットを吹いている隣に座っていたんだ。その子はクラリネットはやっていないけれど、ジョー・テンパリーだの、ヴェス・アンダーソンだのといった、心も技も優れた連中と僕の子が顔見知りだってことが、僕は嬉しい。僕の息子達は、ミュージシャンに将来なる必要はないと思っている。大変な仕事だからね。自分達で選んだ道を歩いて行って欲しいと思っている。彼らにはいつも、自分の人生は自分のものだから、と言って聞かせている。親として、これが最善のもってゆき方だろう。僕が彼らの面倒を見るのは、自分がそうしたいからだ。見返りなんて、考えるはずもない。といっても、これって、人への愛情、あるいは人生のこと全般について、心底納得するのが一番困難な悟りだろうね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

8.I want them to be whatever they choose私は彼らに何でも彼らが選ぶものになって欲しい:不定詞(to be) 関係詞+ever(whatever) 

 

僕だって若い頃は、こういう考え方は理解できなかった。それで心が傷ついたことがある。僕の思い込みだったのだけれど、兄貴が僕を裏切って見捨てた挙句、ポップミュージックへと走ってしまったことがあった。今だったら、彼の立場に立って理解しようという気は、勿論ある。どうしてそうすべきでなかったのかを、僕の思い込みとか混乱した精神状態とかを抜きにしてね。僕は学習したんだ。自分以外の人間に、何かを押し付けてはいけない。その人を愛するなら、なおのこと。相手が自分らしくさせてあげないといけない。愛は取引でも交換でもない。といってもこれは大変なことだ。何せ、人間関係における「お約束」の大半が基づくのではないか、という概念は、「私はこれをするか、あなたは、あれをしてよね」だろう。でも人間とは、自分の子供、兄弟姉妹、あるいは友人達、みんな自分の生活や強い希望を、それぞれ持っているものだ。僕は自分の子供達に対しては、自分の期待を押し付けないようにしている。ただ、君は自分の子供達に、学校の成績だの何だのと言って、期待を寄せなればならなくなったとしても、彼らが自分らしくしていられる自由を与えて、彼らが喜びを感じてドキドキすることを、追い求めさせてやることが、大切なんだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

13.That's why I got so hurt when I felt like my brother sold me out, leaving to go off and play pop musicそれは私の兄が私を裏切って去ってしまいポップミュージックを演奏したと私が感じた時に私がとても傷ついた理由だ:関係詞(why) 分詞構文(leaving) 不定詞(to go play) [p.118,2]But it's important to liberate them to be themselves, to let them pursue their own dance with joyしかし彼らに自由を与えて自分らしくさせたり彼ら自身の喜びを感じる胸の高鳴りを追い求めさせてやることは重要だ:仮主語(it's) 不定詞(to liberate) 使役動詞+O+原型不定詞(let them pursue) 

 

(118ページ) 

 

常に、その喜びや甘美さを追い求めよう。一人引きこもって、否定的(ネガティブ)な思い込みで物事に取り組まないようにしよう。ここまで君と僕とで話し合ってきたことの中には、「世の中いつもこうなのか?!」と思わせるようなこともあったと認識している。ウソッパチのオンパレード、破壊的な行為、自分の成すべきことをしない連中。ところが実は、こういったことについて話し合うことで、君の考えに肯定的(ポジティブ)な影響を与える知恵を見出す手助けになるんだ。そういう知恵を創り出してゆこう。それがジャズの道を歩いてゆく君を元気づけてくれるだろう。生きることは、肯定的(ポジティブ)な体験なんだ。ブルース形式が、そう教えてくれている。だからこそ、ブルース形式は存在し続けるし、多くの音楽に取り入れられているんだ。世の中で、そして君の身の回りで起きた全ての辛い出来事、にも拘らず、君は健在だ。そして節度を持って自分の音楽を、今なお表現することが、ちゃんと出来ている。これって、悲しみに涙しないように、敢えて笑顔でいるのと同じ。そして、胸の高鳴りと言うやつを、いつも持ち続けること。音楽も、ジャズも、全てはドキドキするものであるべきだ。丁度君が初めて女の子とスローダンスを踊った時のように。ひたすら体を押し付けて、訳が分からなっくなって、その子の中で、ゴソゴソ這いつくばっているような気分。それでも止めたくなくて、気持ちが高まったり、萎えたりしながら、ひとつになろうと頑張る。予測不能、目まぐるしい変化、人と関わって物事に取り組むとは、そういう気分だよね。それでも測り知れない喜びがそこにある。そして今、この瞬間も、君はそれに取り組んでいる。大いに楽しむがいいさ。だって同じ経験は二度は有り得ないのだから。それがジャズ。 

いい夢見ろよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

5.I know some of the discussions we've had make it seem as though things are always presented that way: bullshit going on, corruption, people not doing their share of this work私達がこれまで行ってきた話し合いのせいで物事はいつもこの話し合いの中で出てきたようになっているように見えてしまって入いることを知っている。ウソが続き、堕落が起き、人々は自分に与えられた仕事をしない:関係詞・省略/現在完了(some discussions [that] we've had 使役動詞+O+原型不定詞(make it seem) 仮定法・反実仮想(as though) 8.Truth is, all of that is to help you identify a positive frame of reference実際はその全てが君が自分の考えに肯定的な影響を与える知識を見出すのに役に立つことになるだろう:近い未来/help+O+原型不定詞(is to help you identify)   

 

 

(119-121ページ) 

 

著者・編集者紹介 

 

ウィントン・マルサリスリンカーンセンター芸術監督(ジャズ)、演奏家、教育家、作曲家 

 

ニューオーリンズ出身。6歳の時、ジャズの大家、アル・ハートから、最初の楽器(トランペット)を譲り受ける。高校在学中はジャズとクラシックの両方を学び、ジョン・ロンゴ、ノーマン・スミス、ジョージ・ヤンセン、ビル・フィールダーの各氏に師事。卒業後、ニューヨークのジュリアード音楽院に進。ブロードウェイではスティーブ・ソンドハイム作「スウィーニー・トッド」上演に際し、オーケストラにてトランペット奏者として参加。また、ブルックリンフィル―ハーモニックのメンバーにもなる。クラーク・テリー、ロイ・エルドリッジ、ハリー・”スイーツ”・エジソンディジー・ガレスピーといった、ジャズの先輩大御所達に師事し、共演。名ドラム奏者、アート・ブレイキーと定期的に共演を始め、後にブレイキーの主宰する「ジャズ・メッセンジャーズ」に1年半参加。これまでに(訳注:2005年迄)、グラミー賞をジャズ、クラシックの両部門で計9回、アーティストとしては唯一、5年連続で同を受賞(1983年~1987年)。1997年にはアフリカ系アメリカ人奴隷制と自由解放を描いた、音楽史上初のジャズオラトリオ「ブラッド・オン・ザ・フィールド」の作曲により、ピューリッツァー音楽賞を受賞。 

 

セルウィン・セイフ・ハインズ:作家、ジャーナリスト。「Source」誌編集長、エグセクティブエディターを歴任。プリンストン大学卒。 

これまで数々の受賞歴を持つ名作家。2002年、回顧録「Gunshots in My Cook-Up」を執筆、批評家達の絶賛を受ける。「Vanity Fair」「Spin」「Vibe」「USA Weekend」そして「Village Voice」(ハインズ氏のキャリアの出発点)などに、記事や評論が掲載される。ニューヨークのブルックリン在住。 

 

この本はフォーニエールを印字体として使用しています。フォーニエールはピエール・サイモン・フォーニエールという、フランスの印刷業の一族の末息子の名前です。ピエールは木片刻印、サイズの大きな大文字体、そして活字制作へと事業を拡張してゆきます。1736年には自身の鋳造工場を設立し、活字のデザインにいくつかの重要な貢献を果たします。彼自身が考案したアルファベット字体は147種類といわれています。フォーニエールと言って一番に挙げられるのは、彼自身がデザイナーとなった「St.Augustine Ordinaire」でしょう。後にモノタイプのフォーニエールのモデルとなり、1925年にリリースされています。 

 

 

 

これで終わりです。