【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む  第12回

「To a Young Jazz Musician」を読む 

12回:前へ動かすこと、新しい、新しいこと 2003年9月10日  

 

(89ページ) 

 

親愛なるアンソニー 

 

君から最近もらった手紙を読んだら、思わずギフトショップへ走って、便箋とペンを買ってしまったよ。なぜかって、その手紙に書いてあった君からの質問のせいだ。そこに反映されているのは、今の時代の混乱のもとになっていること。若手ミュージシャン達の多くが、このせいで、成長の過程で挫折感を感じてしまっている。とにかく僕は、バスに乗っている仲間に読んで聞かせなきゃ、と思った。君が知りたかったのは、ジャズを演奏するに当たっての、新しく、現代的で、進歩的なものを創造する重要性、つまり、音楽を前へ動かす重要性だ。これって、今の学生が皆決まって言うけれど、極寒のツンドラへ攻め込むようなものだよ、君!ま、落ち着いて。これから話すことは、イノベーションと言うものの、正しい意味と誤った意味、そして若手ミュージシャンが陥る、ひどく有毒な誤解を避ける方法について、だ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

1.Your last letter actually made me run to the gift shop for some new stationary and a new pen君の最後の手紙は私を新しい文具と新しいペンを求めてギフトショップへと走らせた:使役動詞+O+原型不定詞(made me run) 9.That's frozen tundra you're invading my friend, though it seems to be the mantra of the modern student友よ、それは君が侵入しようとしている凍土のツンドラだ、それは今の学生のお題目のように見えるかもしれないが:関係詞・省略(tundra you're) 不定詞(to be)  

 

(90ページ) 

 

僕達は、芸術活動に対する信念や理解の仕方と、科学技術に対する見方とを、同じくしていたことがある。芸術作品の一つを、自動車一台に例えて考えてみたりする。「今回のバージョンの方が、T型フォードよりいい出来だ。だからT型フォードはもう無用だ。」ところが音楽の場合、「ルイ・アームストロングはビーバップの時代からロックの時代を通して、演奏活動を展開した。一部の人々からは時代遅れと見なされてしまった」と、こうなったとしても、誰一人「彼はもう無用だ」とはしなかった。コルトレーンは和音演奏の新しい手法を編み出した。これは大変興味深い方法として成功した。他のプレーヤー達もこれを真似し、いわゆる「新しいこと」となり、流行(はやり)となった。でもコルトレーンの編み出したこの手法は、別にジャズの技術を前へと動かしたわけじゃない。彼が頭角を現した頃、ジャズの技術は澱んで停滞していたわけじゃない。ジャズの方から、その懐を広げて、彼のサウンドを抱き込んだ、というわけだ。だからそれが失われても、後退などしない。芸術とは、皆そういうものだ。でも、もしかしたら一つだけ例外として、ルイ・アームストロングがジャズを前へ動かした、と言えるかもしれない。というのは、彼は自分と共に生きた全ての人達に、スウィングと言うものを教えたようなものだからだ。といっても今日彼に対する評価は、スウィングを教えたことに対してではない。今尚、人々の魂にインパクトを与える、彼の音楽の深さに対してだ。わかるかな、アーティストが時空を超えて語りかけてくるのは、こういうことがあるからだ。芸術のスタイルは変わっても、人の魂のなす技は、変りはしない。魂を揺さぶることを、やり過ごしてはいけない。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

9.Coltrane came up with new ways to play harmonies, very interesting things that worked for himコルトレーンがたどり着いた新しい手法の数々とはハーモニーの演奏の仕方で、彼にとって成功した非常に興味深いことだった:不定詞(to play) 関係詞(that) 17.Perhaps a case can be made for Armstrong moving jazz forward, because he taught everyone in his era to swing多分一つの事例が創られる可能性があるのはアームストロングがジャズを前へ動かしたということ、なぜなら彼は彼の時代の全ての人にスウィングすることを教えたからだ:現在分詞(moving) 不定詞(to swing) 

 

(91ページ) 

 

実際の演奏をどうのこうのする、という話で言うなら、音楽を前へ動かすなんて、ありえないし、できっこない。そんなこと、出来るだろうと本気で信じたり、やってみたいと本気で思ったら、とんでもないイリュージョンに苦しむことになる。そして更には、君の演奏が世代のギャップという処を突き刺すことになる。それは若い世代を年配の世代とケンカさせることになるだろう。常にお互いにとって不幸だ。人は音楽をどこへも動かさない。動くのは人のほうだ。だから、君自身の音楽を持って、君自身の明確な居場所を創り出そうとしなさい、と言っているんだ。バッハは、時代遅れと見なされた時もあっただろうけれど、今の時代、バッハの音楽の世界は、かけがえのないものだ。確かにバッハは、それまでなかった手法を次々と編み出した。だからと言って、バッハの音楽が存在することで、パレストリーナの音楽は、これっぽっちも否定もされなかったし、「越えられた」ともされなかった。ベートーベンの音楽は、バッハのブランデンブルク協奏曲集も、あるいはモーツアルトのハンパない音楽も、否定などしなかった。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

6.Seek to create a defined place of your own with your music君の音楽で君自身の定義された場所を創ることを求めなさい:不定詞(to create) 過去分詞(defined)  

 

音楽以外の芸術に話を広げよう。ピカソを見てごらん。彼のスタイルといえば、物の形を次々と変化させること、そして、描く対象の基本構造に対する見つめ方は、完全に彼独自のものだった。でもそれは、マティスとかゴヤといった芸術家達の力量をしのいでいる、と言うだろうか?僕は言わないね。たとえ彼のスタイルが、全ての世代の画家たちにとって常識となる位、広く受け入れられたとしてもね。彼らが自分達で選んだことだもの。文学だって、前には動かせはしない。シェイクスピアでさえも、だ。多くの文豪たちが、それぞれにスタイルを持って、生まれ、生きて、がむしゃらに書きまくり、そして亡くなっていった。彼らが描き出した人間のキャラは、古代の大作家ホメロスより上回っているかな?内容は異なるだろうけれど、じゃあ、その量は?ホメロスが不要になったり、廃れてしまったりする程かな?僕はそうは思わない。芸術と言う切り口から見れば、世代なんて唯一、「人類の世代」。着ている服が、トーガでも(古代)、ラッフルの襟でも(中世)、タキシードでも(近世)、スリーピースやジーンズでも(現代)、話す言葉は同じ。だからこそ芸術は、文明が全滅したって生き残るし、役に立ち続けるんだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

23.Different, yes - but so much more as to make Homer unnecessary or out of mode?確かに異なる、しかしホメロスを不要とか廃れたとかいう状態するほどか?:不定詞/make+O+C(to make Homer unnecessary) 

 

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ジャズミュージシャンたる僕達のほとんどは、音楽の新しい世界を創り出そうなんて、するわけないし、その世界に僕達のファンを住まわせようなどと考えるはずもない。そんなことよりも挑んでゆくべきことは、今既に自分達の手にあるものに存在する。それは自分だけの演奏方法、これは、一人一人の話す声色が異なるくらい、人によって様々だ。なんてことを言うと、それって自分にも隠れた力があって、イノベーションを起こして独自の世界を創り出して、やがて多くの人々がそれを当たり前に受け入れてくれるようになる?変な勘違いをして、そんなの当てにするなよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

4.As jazz musicians, the great majority of us will not invent a new world of music inhabited by our disciplesジャズミュージシャンとして私達の大半は私達を信奉する人々が住む音楽の新しい世界を発明などしない:過去分詞(inhabited)  

 

腕を磨いていると、そのうち自分が名人に並んだんじゃないかと勘違いし出す。そのうち打ちひしがれて、言いがかりをつけて上手なプレーヤーの悪口を言い出して、挙句、演奏の世界から身を引いてしまう。今日、ロースクールに通う人は200万人いる。例えば史上最高の法律家を5人挙げるとしよう。そしてこう言うんだ「これを基準にして、合否を決めます。このレベルに達しなければ、課程を修了したとは見なしません」。さあ、一番優秀な連中は頑張ろうとするだろう。でも後に続く連中が上手く行かなかったら、まともな考えの持ち主だったら、法律家を目指そうんなんて、誰も思わなくなってしまうだろう。そんなわけだから、まず第一に、音楽を前でも後でも動かそうなんて、思わないこと。色々な意味で、重すぎる。そして第二に、ジャズミュージシャンとして成功した、という基本レベルを、「偉大なイノベーター」とされる人達のそれと同じにしないこと。ハードルを高くしても、ロクなことにならない。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

14.This is the standard of excellence by which you will be judged, pass or failこれが合格か不合格か君が審判される優秀さの基準だ:前置詞+関係詞(by which)  

 

イノベーターになれるよう教えてくれる人なんていないし、逆に人のやる気をくじくような人もいない。でも、そこそこのミュージシャンへと育ててくれる人は、いるかもしれない。世界中でジャズを学ぶ何千人もの子達が、君と同じように心に抱いている目標が、限りなく不可能であり、明らかにバカバカしいというのが本当なら、君はどうする、アンソニー?僕はこれまで、世界中でレッスンを開くたびに、この目標を口にする人達を聞いてきた。「そうとも、とにかく新しいことをしなきゃ。成功するためには音楽を前でも上でも動かさなきゃ」。これも、もう何年も聞かされている。そして、その「何年も」の間中、ジャズを前へ動かした子なんて、誰もいない。高すぎる目標を掲げた子達は、皆それに潰されてしまった。例えば僕がシェイプアップしようとするなら、そんな風に目標を明言などしない。君に対しても、僕自身に対してもね。つまり、「十種競技の選手になる、目標は9年後の2012年のオリンピックだ」なんて言おうとする。僕は今41歳だ。これじゃシェイプアップなんて多分無理だし、ましてやオリンピックだなんて、とんでもない話だ。それでは、ということで、今度は「30ポンド体重を落とそう。明日朝1.5マイル走って、2週間毎に0.5マイルずつ距離を伸ばしてゆこう」と言うとしよう。これなら、1か月で目標の30ポンドの内10ポンドはいけるんじゃないかと思うよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

25.How is it, given the near impossibility and the obvious absurdity of the goal, that thousands of jazz students all over the world think as you do, Anthony?仮に目標の不可能さとバカバカしさという、世界中の何千人ものジャズを学ぶ学生達が君と同じように考えるモノを与えられたら、どうだ?:分詞構文・条件句(given) 関係詞・非制限用法(that) 

 

(93ページ) 

 

実現不可能な目標を掲げて物事に取り組み始めるなら、初めからその勝負は負けてしまっている。勿論、君が神に選ばれし者なら、話は別だがね。僕はマイケル・ジョーダンと会ったことがある。その時彼はまだ大学生だった。彼はこう言った。「僕はNBAプレーヤーになって、バスケとは何かを世の中の人に教えてやりますよ!」その時部屋に居た僕と他の連中は、聞いても笑うだけだった。「こいつバカだ。大学のリーグでも未だ通用していないっていうのに」もっとも彼は、その現実は自覚していた。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

16.When you start out with an impossible thought, you've lost a battle from the outset, unless you're one of the ordained ones, of course君が不可能な考えを持って始めるなら、君が勿論神に選ばれた者でない限り君は戦いに負けてしまっている:条件節(When) 現在完了(you've lost) 

 

でも、もし君が神に選ばれし、世にも稀な人物でないのなら、自分の目標の重さに押しつぶされている状態では、勝ち目のない戦いになってしまうだろう。始める前から戦いに負けてしまっている。「労多くして実り少なし」では、単に、君が本当に目指すべき目的からも、君は逸れて行ってしまうことになる。「本当に目指すべき目的」は、僕達の場合、演奏の仕方を身に付けることに他ならない。ひたすら上手になるよう努める、ひたすら楽器をさらう、こうでないのなら、そんなの登山用の装備もなくエベレストに登る決心をするようなものだ。とにかく一人でも多くのミュージシャン達には、こういう認識を口にしてほしいと思っている「史上最高の努力をしたミュージシャンになりたい。移調ができるようになりたい。譜読みの力をアップしたい。両手で弾けるようになりたい、アドリブソロをキチンと最初から最後まで吹き切れるようになりたい」。さて、別に控え目な目標を立てろ、と言っているわけじゃない。現実味のある目標にしてくれ、と言っているんだ。ジャズは、普通に良い才能を持っていれば、大いに創造性を発揮できる懐の深さを、元々持っている。これこそが、ジャズの最大の力だ。あらゆるレベルの人々に応じて、その人に挑戦し、そして受け入れてくれる。それでもなお、アンソニー、君には人より大きなチャンスがあると思うよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

25.The fruitless struggle merely serves to lead you away from your real objective - in our case, learning how to play実り無くもがくことは単に君を本当の目的である、私達の場合だと演奏する方法を身に付けることから遠ざけるよう導く手助けにしかならない:不定詞(to lead) 動名詞(learning) 疑問詞+不定詞(how to play) [p.94,4]I'd like to hear more musicians saying, “I want to be one of the best trained musicians ever私はより多くのミュージシャン達が「私は今までで一番トレーニングを積んだミュージシャンになりたい」と言うのを耳にしたい:仮定法(I'd) 不定詞/知覚動詞+O+現在分詞(to hear more musicians saying) 

 

(94ページ) 

 

君には、人より大きなチャンスがある。自分のスタイルの中に独自のサウンドを創り出した、偉大なミュージシャン達の仲間入りをするチャンス - 例えばクリフォード・ブラウンスタン・ゲッツ、J.J.ジョンソンみたいなね。でも考えると、「自分自身のサウンドを創り出せたなら、自分は成功したと思え」なんて、誰も言ったことは無いな。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

15.I wonder, did anybody tell you to consider yourself a success if you attain your own sound?君がもし君自身のサウンドを手に入れたなら君自身を成功者と見なせなどと、誰か言っただろうか:反語(did?) 仮定法・現在(if you attain) 

 

誤解するなよ、アン坊よ。君を期待させて、また突き落としたわけじゃない。でもね、考えてごらん。練習にせよ、知識や教養にせよ、音楽に対する君の哲学にせよ、君も、そして君と志を同じくする仲間達も、最高レベルを達成しないと気が済まない、というなら、演奏活動なんか楽しくも何ともないんじゃないかな?今のメジャーリーグの選手たちを見てごらん。ベーブ・ルースと同じレベルでないと満足してはいけないのか?そもそもメジャーの選手だということ自体、大したものじゃないか!それだったら、やってられないよ、ということになるだろうよ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

25.You might quit playing from sheer frustration君は全くのフラストレーションから演奏することを辞めてしまうかもしれない:仮定法(might) 動名詞(playing) 

 

(95ページ) 

 

何が君にとって大切なのかを、見直してみたらどうだろう。「あの6人の偉大なイノベーター達に肩を並べなければ、成功者とは言えないんだ」なんて言わないで、「あの6人すごいよな。僕だって匹敵する力を、必ず身につけて見せる。もしダメでも、僕だけのサウンドってやつは、磨いてゆこう」。これでいいんじゃないかな。オーネット・コールマンの話が参考になるかもしれない。彼は確かにイノベーターの殿堂入りをしている人だけれど、その中に在って、ユニークな存在として知られている。ルイ・アームストロングのレベルの過去の演奏と肩を並べないと、と悩んだのではないか、とか、今の時代の連中に対して競争力を持っていたんじゃないか、とか、自身の栄誉を獲得し世間に認めてもらおうと頑張り、頂点を極めた連中に狙いを定めているんじゃないかとか、想像していることだろう。でもね、物事は今自分がいる時代を越えて考えることが必要だ。何しろ今は、自分を売り込むことが実績となる時代だからね。考え方としては一番面倒だ。とにかく求められることが今と違う時代の話だ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

5.Thinking of Ornette Coleman might be instructive hereオーネット・コールマンのことを考えるのがここでは導く可能性がある:動名詞(Thinking) 仮定法過去(might be) 10.You may imagine him taking aim at a summit occupied by other names in the effort to achieve his own glory, his own recognition君は彼が彼自身の栄光と彼自身が認められることを達成しようと努力して他の人達によって占領されている頂点に狙いを定めていると想像するかもしれない:imagine+O+現在分詞(imagine him taking) 過去分詞(occupied) 不定詞(to achieve)  

 

コールマンのキャリアは、アームストロングでも何でも、誰かと肩を並べようという処から始まったわけじゃない。彼かかつて、僕にこう言った「音楽は他人との競争じゃない。自分の理想の実現だよ」。彼がやろうと努めた演奏の方法で、彼にとっての仲間からのリスペクトを勝ち取ろうとした。それは彼が心掛けたことであり、そしてポール・デスモンドキャノンボール・アダレイのような人達も、同じ心がけをしていた。さて結局、多くのミュージシャン達は、彼にリスペクトを示さなかったので、彼は自らのアイデンティティのために戦ってゆかねばならなくなった。そして他のミュージシャン達には耳を貸さず、自分らしさと演奏方法を保った。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

19.Coleman tried to play in a way that would gain him respect from the people he considered peersコールマンは彼が仲間だとみなした人達から敬意を得るであろう方法で演奏しようと心掛けた:不定詞(to play) 関係詞(that) 関係詞・省略(people [that] he) 24.And he maintained his identity and his way of playing regardless of what musicians said about himそして彼はミュージシャン達が彼に対して言ったことを無視して彼のアイデンティティと彼の演奏方法を維持した:動名詞(playing) 関係詞(what) 

 

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オーネットの楽団がニューヨークに活動の場を得た時、見渡してみれば、ウィルバー・ウェアだの何だのといった錚々たる面々が居たわけだ。「仲間からのリスペクト」というのは、オーネット達にとっては大きな意味があった。彼らはそういったことを気にしていた、と口には出さなかっただろう。でも演奏にはそれが出ている。練習の様子から、その取り組む考え方にも見て取れるし、その他、自分達のコンセプトを創ってゆくための取り組み全てに見て取れる。ニューヨークの為に自分達の音楽を届ける、その姿勢は真剣だった。テキサス、ロス、その他自分達の拠点都市ではなく、彼らはニューヨークを望んだ。そこには、弾ける人、吹ける人、叩ける人、歌える人がいたからだ。ニューヨークでは、人はジャズミュージシャンとうものになれた、ということさ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

10.They wanted to be in New York because the people who could play were in New York彼らはニューヨークに居ることを望んだ、なぜなら演奏できる人々がニューヨークには居たからだ:不定詞(to be) 関係詞(who) 

 

オーネット・コールマンの輝かしい業績の数々と、彼自身も輝かしい超一流のミュージシャンであったこともあり、自分の作品を自分の解釈で主として演奏するミュージシャンが、初めて台頭してきた頃の一翼を担うようになった。確かに彼は、興味深く、そして新しい方法で、メロディの演奏と自分のスタイルの表現をアプローチした。でも同時にそれは、スタンダードジャズの終焉が始まったことを意味した。世の中、物事が変わっていくのって、こんな感じだよね。彼はジャズを前に動かしたか?僕はそうは思わない。僕がデューク・エリントンの「トータルジャズ」というコンセプトが好きなのは、こういうことがあるからなんだ。オーネットの演奏方法は、それはそれでひとまとまりに出来上がったもの。いわゆる「新しい手法」とは言わない。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

12.For all of Ornette Coleman's brilliance, and he is a brilliant musician of the highest order, he became one of the first wave of musicians to mainly play his own music, in his own context全てのオーネット・コールマンの輝かしさと彼がミュージシャンとしてその序列の最高峰にあることから、彼は主に自分自身の音楽を自分自身の解釈で演奏するミュージシャン達の最初の波の一人となった:不定詞(to mainly play)  

 

ここまで色々な話を引き合いに出してきたけれど、君がコールマンみたいなイノベーターに、なれるとかなれないとか言うためじゃない。何になれるか、何ができるか、は君自身しかわからない。僕が分かるのは、才能を上回る自分への期待は、時と共に目標が達成できないことをハッキリとさせてしまい、君はやる気をなくして辞めるってことだ。「辞めるってこと」と僕が言うのは、楽器を吹かなくなる、ということじゃない。変な髪型にしてしまうとか、どこかでカルトっぽいジャズの派閥に入ってしまうとか、そういうのを言う。 

 

辞めたらいけない、絶対に。だって、目標の達成が叶おうと叶うまいと、音楽にキチンと関わることは、いつだってOKなのだから。理性的に行動すること。もう限界だ、もう失敗だ、といって自分の音楽に対する哲学をねじ曲げるな。絶対に辞めたらいけない。良いミュージシャンになることを、ひたすら目指せ。自分を律し、自分を鍛え、自分を育てる、このことに全てを懸けろ。他人に何かを与えることを通じて、前向きな姿勢で、自分以外の人々の活動に関わってゆくことで、精神を高めてゆけ。君も知っていると思うけれど、ボーイスカウトをダサいと考える人がいるが、彼らは社会貢献を自分達の活動の中に取り入れている。バッジをもらったり、ジャンボリーで買ったりとか夢中になっていることもあるかも知れないけれど、同じ様にスカウトってやつは、社会貢献活動をしっかりやらなくてはいけない、ということを意味するからだ。そしてそれは、ひいては国全体の癒しになってゆく。金を儲けるためとか、他人の一枚上を行くとかよりも、高い次元の精神面での目標を持たないといけない。 

 

アート・ブレイキーはこう言った「霊柩車の後ろを戦車が走ってゆくなんて、あるわけないだろう」。課題に真剣に向き合え、そうすれば君の仲間から、リスペクトかジェラシーか、どちらかが来るよ。そしてこの先、優れた才能が君にと会ってやろうか、なんて思ってくれたら、その登場音楽を聴き逃すなよ(訳注:君が優れた才能を身に付けるチャンスが来た、という兆候を見逃すなよ)。 

 

無理なく、ボチボチとね。 

 

 

第13回は、9.「大草原に独り立つ男」 (2003年9月22日) を見てゆきます。