【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む  第9回

「To a Young Jazz Musician」を読む 

9回:自分の立ち位置に対する思い上がり 2003年82日  

 

今回は全て見てゆきます 

  

 

(55ページ) 

 

親愛なるアンソニー 

 

今日、バーモントへ向けて出発した。優しいヴェスのとっつぁんは、サックスの名人だが、コーヒーの淹れ方も世界レベル。今コーヒーを淹れ終えて、スウィングの効いた曲を社内に流してくれた。その曲の流れ具合が、乗っているバスのエンジン音にうまくハマって、不思議とほっとするような、そして打ち解けった気分になる。言い争いでも、建前と本音が一致していると、スムーズに進んでいくけれど、あんな感じだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

1.Warm Daddy Wes, saxophonist superb, left off making his world-famous coffee to put on something swingingヴェッセル・アンダーソン(優しいとっつぁん)という優れたサクソフォン奏者は彼の世界的に有名なコーヒーを淹れ終えてスウィングの効いた何かをかけた:動名詞(making) 不定詞(to put) 現在分詞(swinging) 3.The way the music floats over and through the growling hum of the bus engine can be so strangely relaxing and familiar, like the rumble of purpose mixed with intentその音楽が流れてバスの唸るようなエンジン音を通ってゆく様が、とても不思議なほどにリラックスし懐かしい感じと言えるが、それは本音と目的が溶け合った言い争いの様だ:関係詞・省略(The way [which] the music floats)  

 

今朝これを聴いて、君にじっくり考えてもらいたい問いかけを思いついたところだ。チャーリー・パーカースタン・ゲッツマイルス・デイビスシドニー・ベシェといった人達のサウンドに、一貫して存在する美しさ、これを生み出すものは何か?今朝僕達が聴いたのは、ソニー・スティットジョー・ヘンダーソンだ。二人には通じるものがある。アメリカ人以外の奏者にも、それを見い出せるだろう。世界中のジャズを愛する輩どもが、自分にもそれがあるぞ、と言ってくるはず。今日君には、この答えを探す旅路を歩いてもらう。他人の事より自分に厳しい基準を課すこと、自分を厳しい目で見つめることに耐えること、人間なら誰もが持つある程度の傲慢さを克服すること、これができれば、もしかしたら、その「一貫して存在する美しさ」の答えと出会えるだろう。 

(語句と文法:数字は行数) 

7.This morning's listening took me to a question I want you to ponder今朝音楽を聴いたことは私を君にじっくり考えてもらいたい質問へといざなった:動名詞(listening) 関係詞・省略(a question [that] I want) 不定詞(to ponder)  

(56ページ) 

ギドン・クレーメル、ザギール・フセイン、あるいはマリア・カラスといった人達の演奏や歌声を聞けば、どんな音楽の世界にも名人・達人がいるんだ、ということが君にもわかるはずだ。そしてまた、彼らのサウンドに、一貫して存在する豊かさを見出すだろう。それでもってビリー・ホリデーの歌声にも素晴らしさがある。優劣じゃない。単に種類が違うだけ。ジャズ特有の一貫したものだ。ジャズのトランペット奏者達に目を向けてみよう。ルイ・アームストロング、ロイ・エルドリッジ、ディジー・ガレスピーマイルス・デイビスフレディ・ハバード、ウッディ・ショー。違う音楽の世界を見てみれば、そこにも素晴らしいジャズのトランペット奏者達がいることがわかる。例えばファッツ・フェルナンデス。彼は偉大なアルゼンチンのトランペット奏者だ。地理的に、時代的に、あるいは文化的に分け隔てられていても、彼らの音楽には依然として一貫して存在する美しさが息づいている。彼ら名手達を結び付けるものは何か?程度の差はあるが、そのありかを教えてあげよう。もう一度聴いてごらん、ほら、君の目の前にあるだろう。サウンドに込められた感情の中に在って、奏でる音楽の核心をくっきりと描いている。それこそが、君が自分のサウンドに取り込むべきものだ。それは情熱。ではどうやって取り込むか? 

(語句と文法:数字は行数) 

17.We could go into different cultures and produce great jazz trumpeters, like Fats Fernandez, Woody Shaw私達は異なる文化へ入ってゆきファッツ・フェルナンデスやウッディ・ショーの様な偉大なジャズトランペット奏者達を取り出すことが出来るかもしれない:仮定法(could go and produce) 21.What is the thing that ties together all these people who really can play?これらすべての本当に演奏ができる人々をひとまとめにするものは何か?関係詞(that ties who can) 23.Listen again; it's right in front of you, man, sitting in the emotion of the sound, defining the sheer essence of the musicもう一度聴いてみろ、それは君の目の前に在って、音の感じの中に存在しその音楽の純粋な本質をくっきりとさせている:分詞構文(sitting defining) 

 

(57ページ) 

まずは、君が物事をどの様に捕えているかを見直してみよう。人間誰しも、自分の根底にある本当の姿を、、どうやって見ずに済ませようか、ということに、あまりにも時間をかけすぎている。どうやったら、自分の欠点を無視して、ひとつの世界を作り出せるか、その方法を何とか解き明かそうとしながらね。ジャズのことに当てはめると、こうだ。ハーモニーの聞き分けが上手な人は、決まって、曲調の変化が激しく、でも他には何もないような曲を好んで演奏する。あるいは、ハイトーンが出せると、そういう曲ばかり好むようになる。テンポが突っ込みがちな人は、指回しの速い曲ばかり演奏するスウィング音楽が好きな人達はビーバップを拒否するし、ビーバップの愛好家達は「ジャズミュージシャンたるもの、ビーバップだけが学ぶに値する」と言い張る始末だ。 

(語句と文法:数字は行数) 

3.We all spend far too much of our time running away from our central issues私達は皆私達の中心にある物事から逃げ回ることにあまりに多くの時間をかけすぎている:分詞構文(running away) 4.Trying to figure out how to construct a world in which we ignore our insecurities私達が自分達の不安定さを無視する世界をどうやって創るか見出そうとしている:分詞構文【前文からの続き】(Trying) 不定詞(to figure out) 疑問詞+不定詞(how to construct) 関係詞(in which we ignore) 10.People who like swing music put down bebop musicians, and some who love the bebop language will insist theirs is the only language a musician should knowスウィング音楽が好きな人達はビーバップのミュージシャン達を拒絶し、ビーバップの音楽のやり方を愛する人達は彼らの音楽のやり方こそがミュージシャンたるものが知るべき唯一のやり方だと主張するだろう:関係詞(who) 関係詞・省略(the only language [that] a musician should know) 

 

例えば、アート・ブレーキー門下のミュージシャン達と話してみると、彼らはこう言うだろう。「マックス・ローチは大してスウィングはできなかったし、テンポも走り気味だった」 

とね。逆にマックス・ローチ派のミュージシャン達と話してみると、彼らはこう言うだろう。「あのね、こいつらブレーキー門下の連中は、弾けるけれど、知的センスが足りないんだよ」とね。結局、誰もが自分にとっての真実を懲り固めてゆきたい、ということだ。もしかしたら、世の中に在るものは全て正しい、と言う事の方が、より立派な真実じゃないかと思うね。でも君の目指すところの為には、名人達人のやり方が、互いにどこがどう違うかなんてことは、大して重要ではない。互いに相通じるところの方が重要だ。マックス・ローチからも、アート・ブレイキーからも、君が学ぶことはある。問題はこうだ。「君自身のスタイルというものをしっかり作り上げて、君にとっての心からの真実を表現してゆく気はあるか?ハッタリの哲学だの概念だのを口にして逃げようなんて思ってないだろうな?自分の元いた安住の地を捨ててでも惚れ込んだものへと近づく、その方法はちゃんとわかっているだろうな?」とね。 

(語句と文法:数字は行数) 

24.Can you develop your style to address the truth of what you really want to say, and not skirt on the outside with some bogus philosophy or conception?君は自分のやり方を磨き上げ、君が本当に言いたいことの真実を表現しそして何らかの見せかけの哲学や概念を使って回避するようなことはしない、それができるか?:不定詞(to address) 関係詞(what) [p.58,2]How do you get closer to the thing that you loved enough to leave home?自分の元いた場所を離れてもいいと思うくらい好きになったことへと近づくにはどうしたらいいか?:関係詞(that) enough+不定詞(enough to leave) 

 

(58ページ) 

アンソニー、君は大都市からは完璧に離れているオクラホマの子だ。でも、今やここニューヨークで演奏活動をしようとしている。君は実に大きな犠牲を払ったわけだが、これから君は、これより更に大きな犠牲を払って、君自身の内面の奥深くへ入ってゆく。君が成すべきことをして求めるものへと近づいてゆくためだ。こういった犠牲を払うとか、払わず逃げるとか言う考え方は、何も音楽に限ったことじゃない。友人達のこと、自分が産んだ子供達の事でも起こりうる。アメリカで人種問題に関する話題が上がれば必ず付きまとう。君の人生での決断の場にも、いずれやってくる運命にある。これに実際のところ、どのくらい惚れ込んでいるか?そのために何をどの位諦めるか?今まで未練がましくしがみついてきた不安定な拠り所をバッサリ切って、信じる力をフルに発揮して戦いに飛び込んでゆく気はあるか? 

(語句と文法:数字は行数) 

4.You're an Oklahoma boy, Anthony, completely removed from the big cityアンソニー、君はオクラホマの少年で大都市からは完全に離されている:分詞構文(removed) 6.That's a hell of a sacrifice you've madeそれは君が払った大変な犠牲だ:関係詞・省略(a sacrifice [that] you) 現在完了(you've made)  

 

僕達はジャズミュージシャンとして今の時代を生きている。そして今の時代、僕達が取り組むジャズ音楽に対する評価は、「黒人プレーヤー?白人プレーヤー?」ではなく、実績によって決まる。かつて影響力のあった社会的慣習は、もはや関係なくなった。ジャズはCDに録音され、多くの人々がそれを聴いて、意見を交わしている。でもジャズをしっかりと演奏する人というのは、実は殆どいない。ジャズとしっかり向き合い、内面を掘り下げて、取り組み続けるジャズミュージシャンの数は、多くはない。結局僕達は、ライターや雑誌記事、昔ながらの批評家を気にして、そして友達が応援してくれなくなったらどうしようとか、仕事をもらえなくなったらどうしようとか、を心配する羽目になってしまっている。音楽とは全然関係のないことに振り回される。これが人生の現実だ。そして何より、もっと僕達を振り回すのは、実は、僕達自身の心の中にある「とことん危険を冒すことは避けたい」という気持ちだったりする。思わず言ってしまう言葉「チョコチョコっと仕事が出来れば御の字。」こんなことに甘んじないでほしい。人にいいように使われるのがジャズの演奏じゃない。たとえ自分に辛い結論が出ようと、物事をしっかり理解し演奏に全てをかける、これが大事だ。 

(語句と文法:数字は行数) 

17.It's not about the many social conventions that once affected itそれはかつてそれに影響を与えた多くの社会的慣習についてではない:関係詞(that) 23.Musicians are influenced by all kinds of things that have nothing to do with the music - that's lifeミュージシャン達は音楽と何の関係もない全ての物事に影響されている。それが人生だ:関係詞(that)  

 

(59ページ) 

「一貫して存在する美しさ」の話に戻そう。君の演奏スタイルやサウンドにもそれが欲しいなら、自分の立ち位置に対しての思い上がりの心から抜け出すことだ。「思い上がり」といっても、僕や先生、ご両親や君の関係者に対して、偉そうにするな、とか、そういう話じゃない。自分を過大評価するな、ということ。何気なく鏡の前に来て、自分の顔を見てしまったら、汚い顔をしていた、なんてことあるだろう。予想外の酷さを思い知る。良くある話だ。でもそれは、君が自分の立ち位置に対しての思い上がりの心から抜け出すきっかけなんだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

15.You know how you might walk past a mirror at the wrong time and see your reflection at an angle that you don't like?タイミング悪く鏡の前に通りかかって君が好まないアングルが鏡に映っているのを見たらどう思うかわかるだろう?:疑問詞節(how) 仮定法(you might) 関係詞(that) 17.An angle that shows you that the certainties you hold about yourself may not be all that rock solid?君自身についての確信はそれほど確固たるものではないかもしれないということを示すアングル:関係詞(that shows) 関係詞・省略(the certainties [that] you hold)  

 

ジャズ音楽の持つ力は、君を君自身の根っこの奥深くへと誘い、そことの結びつきを保ってくれる。浅はかな人生論だの、お手軽な物事の進め方だの、君が今の世の中で目の当たりにすることの多くは、自分を見つめないで済むようにできている。でも僕は君に、自分の立ち位置に対しての思い上がりの心から抜け出してほしい。そうすれば、音楽のサウンド(本質)を愛する心へと辿りつけるからだ。そして、君が名人達人の音楽から聞き取った、形のない、一貫した美しさについて、君だけが手にする美しさというものを追い求めること。それはひいては、自分を大切にする心になってゆくんだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

21.A lot of what you see going on today, the quick-fix philosophies and one-step systems, are designed to keep you away from self-discovery一時しのぎの哲学と一つの段階しかない仕組みといった君が今日発生しているのを目にする多くのことは君が自己発見する事から遠ざけるように作られている:関係詞(what) 知覚動詞+O+現在分詞(see going) 不定詞(to keep)  

 

(60ページ) 

数年前、カーネギーホールで、大御所ソニー・ロリンズが若手の奏者達と一緒に演奏しているのを聴いた。父と僕は、伝説のベース奏者パーシー・ヒースと一緒に客席にいた。ヒースが言ったことを今でも覚えている「若い連中のやることは分からん。」これには父も、「そうねぇ、年寄とは違うんだよな」と言うしかなかった。 

(語句と文法:数字は行数) 

4.I was at Carnegie Hall a few years back, listening to some younger cats play with the veteran musician Sonny Rollins私は数年前カーネギーホールにいて、何人かの若手ジャズミュージシャン達が大御所のミュージシャンであるソニー・ロリンズと演奏するのを聴いていた:分詞構文/知覚動詞+O+原型不定詞(listening to some younger cats play) 

 

あるサウンドについて、それがどんな音がするだろうと期待され、実際に鳴ってきた音があったとしても、それはそのサウンドを実際に鳴らして見せたプレーヤーの、世代全員がそうだ、ということではない。他に同じサウンドを鳴らすプレーヤーがいたとしても、多くは、各々自分のサウンドを持っている。物事は個々に捉えてゆくべきものなんだ。若手のプレーヤー達ができて、年配のプレーヤー達が今できない、あるいは若かった頃できなかった、そういうことは確かにある。しかしサウンドというものは、その中には含まれない。それは明らかだ。でも年配のプレーヤー達は、どんな努力を積んで自分達のサウンドをモノにしたのか?もし君が自分のサウンドに、そんな風に個性を持たせるとしたら、何をすべきだと思う?音階練習をやれと言っているわけじゃない。今ここで話していることに対しての、記述的な解決策なんて、あるわけがない。それは保証するよ。ディジー・ガレスピーのアンブッシュア(吹く時の口の形)を見てごらん。こんなに酷いのは見たことが無いんじゃないかな。一生涯、演奏に影響が出てしまったんだって。でも彼にしか出せないサウンドが溢れんばかりにあったことも事実だ。ドラムスについても同じような話がある。1980年代にマックス・ローチと一緒にマスタークラスを開催した時のことだ。今でも覚えている。彼は秘伝の技を一つ教えてくれた。ほんの少し、柔らかなタッチで、ドラムセットのシンバルが歌っているようなサウンドを鳴らして見せたんだ。その美しさは、楽器自体が持っているサウンド。これが聞こえてくることが極意だ。君ならどうする?そういったものをサウンドに取り込む方法は何だと思う? 

(語句と文法:数字は行数) 

22.I remember doing a master class with Max Roach, in the eighties私は1980年代にマックス・ローチと一緒にマスタークラスを開催したことを覚えている:したことの記憶(remenber doing) 

 

(61ページ) 

まずは「抱きしめてあげたいくらい、好きになって受け入れる」という気持ちが出発点だ。「このサウンド、この奏法、大好きだぁ~」と言わんばかりにね。すると、資金投資をした時のように利益が生まれて、そして新たな需要も発生する。「受け入れる」という気持ちを持つことも、大事なお金を投資することも、君の気持ちが真剣であることの表れだからね。例えば君が奥さんと長年連れ添ったとする。彼女について知っていなければならないことが、あるだろう?誕生日、好きな食べ物、実家の家族構成、一番尊敬する恩師、勤務先のビルのフロアと出勤時刻。知らないと大変なことになるだろう。でもその前提として、彼女に対する愛情や、そういう情報を把握しておきたいという動機や気持ちがないとね。そして行動に移さないといけない。でなければ、いくらそういう情報を集めても何にもならない。FBIに個人情報として提供する価値しかない、って感じ。 

(語句と文法:数字は行数) 

6.As soon as you start to embrace that sound, you've made an investment that comes with returns and demandsそのサウンドを受け入れるや否や、利益と需要を伴う投資を行ったことになる:現在完了(you've made) 関係詞(that comes)  

 

ジャズに取り組むことは、これととてもよく似ている。技術的なコツなんて、上っ面ということさ。好きだという気持ち、やってやるぞという動機づけ、そしてできるようになりたいという希望が心の中に在ること - 心とは、困難を恐れない勇気と、全てを歓迎する愛情のことだ。君に教わっている子がいるとしよう。その子に向かって、ロングトーンやって!一番小さな音量で一番響くサウンドが出せるようにするためだよ!一つの音を一分間のばして!こんな練習誰もやりたくないだろう。そんなロングトーン練習をしても、ひたすら「ブー」となっている楽器を抱えて、そこに座っているくらいの意味しかない。誰がこんなことしたいと思う?死んだ音を聴いて、そこから何かを見出したいなんて、誰も思わないだろう。 

(語句と文法:数字は行数) 

21.Say you tell a student to do a long tone, to think about getting the biggest sound with the softest volume and hold each note for one minute君がある生徒にロングトーンをして最小音量で最大の響きを出すことを目標にして一分間のばさせるとしよう:仮定法(Say) 不定詞(to do) 動名詞(getting) [p.62,1]Producing that long tone just means sitting there with a horn going “hooooo” foreverその長い音を出すことは楽器が永遠に「ブー」となっている状態でそこに座っているしか意味をなさない:動名詞(Producing sitting) 分詞構文(with a horn goin) 

 

(62ページ) 

勿論、ロングトーンは大事だ。でもそのロングトーンは、君自身を表現するものでないとね。今の時代、芸術活動は、精神的な側面をしっかりと表現してゆくことが、昔と比べて重要視されてきている。それがないと、ジャズなんて無意味だ。それがあるから意味があるし、君が内にこもらず色々なことに挑戦しようとする動機付けになってゆく。君が、長年連れ添った奥さんを心から愛しているからこそ、彼女の全てを知りたいという気持ちになるだろう。愛する気持ちが、まず最初。「これを知った。それじゃ次に愛そう。」ではない。「ピアノを弾きたい」とは言うだろう。でも、こうは言わないはず「ハ長調の音階を弾きたい。代理和音を弾きたい。テロニアス・モンクの奏法を研究したい」。言うとしたらこうだろう「モンクのサウンドっていいよな」。それにしたって、最初に来るべき動機付けは、精神的なものだろう。こんな具合に「あの雰囲気を自分のサウンドで出したいな」。 

(語句と文法:数字は行数) 

5.Today it's more important than ever to stress the spiritual aspects of our art今日私達の芸術の精神的な側面を強調することは今まで以上に重要だ:仮主語(it's) 不定詞(to stress) 6.Without that, jazz lacks meaningそれがないとジャズは意味がない:仮定法過去(Without) 8.The fact that you really love your old lady makes you want to know all of those things about her君が本当に君の長年連れ添った奥さんを愛しているという事実が、君を彼女のことを全て知りたいという気持ちにさせる:無生物主語/使役動詞+O+原型不定詞(The fact makes you want)  

 

まっとうな技術を身に付けている、ということは、君の姿勢がそこに現れる。技術なんてどうでもいい、などと思っているようなら、やる気があるとはいえない。体調が万全でないのに試合に来る連中みたいだ。相手チームは君をコテンパンにやっつけて、その後は、君のことを「穴」として、とことんそこを突きまくってくるだろう。体調管理というチームのルールなど守ってられるか!と言いたかったのだろうが、君の怠惰から来た自業自得というやつだ。試合が大好きだ、などと言い出す資格はない。試合が大好きなら、体調を整えてきたはずだろう、という話だ。 

(語句と文法:数字は行数) 

18.You'd be like the guy who comes to a game out of shape君は体調不良の状態で試合にやってきた男のように見えるかもしれない:仮定法過去(You'd be like) 関係詞(who) 23.The love would have made you get your ass in shapeその愛は君の体調を整えた状態にしてくれたはずだった:関係詞(what) 仮定法過去完了/使役動詞+O+原型不定詞(would have made you get) 

 

(63ページ) 

そして愛する気持ちは、僕達が何をするにも欠かせないものだ。そしてその愛する気持ちがあればこそ出来る物事への準備や自分の全てをかけることを、自分や他人にやって見せるもの、それが「技術を身に付けている」という状態だ。例えばバッハの話。オルガンの名人の演奏を聞きに400キロも歩いて出かけた。どうしても聞きに行きたいから、足なんて全然痛くないよ、というわけだ。あるいはベートーベン。難聴になって完全に何も聞こえなくなってしまった。長い間作曲を休んで自問した「作曲なんてやる価値があるのだろうか?それも大仕事をするフラストレーションを味わう羽目になりながら?」そして苦しい無音の心の暗闇から、彼は立ち上がった。紙を一枚取り出して「よし、やるか」と言い放った。しかし今や暗闇は更に深く、その分決意もより強固。音楽を愛する気持ちへの試練と向き合っていた。 

(語句と文法:数字は行数) 

4.I love it so much that my feet don't hurt私はそれが大好きなので私の足は痛まない:so+C+that節(so much that my feet don't) 

 

偉大なミュージシャン達が、自分達の音楽を創り届けてゆくために、どんな戦いがそこにあったと思う?デューク・エリントンは、人種差別や偏見、そして採り上げてもらえない辛さと戦った。資金面でもバンドを維持してゆくのに、私財を投じなければならなかった。どんなものでも偉大と呼ばれるものには、目に見えない所に苦労がある、ということさ。ジャズが払った犠牲をしっかりと見ておこう。レスター・ヤングというテナーサックスの大御所は、酒が基で寿命を縮めたけれど、同時に1940年代の兵役中に受けた様々な理不尽な仕打ちに、生涯苦しめられたんだ。コールマン・ホーキンスはテナーサックスの父と呼ばれているけれど、酒が原因で肝臓を患い亡くなった。バンドは麻薬。モンクは世の中が嫌になり、精神崩壊を起こしてしまった。所属していたコロンビアレコード社から、ビートルズの楽曲をレコーディングする依頼を受けていた時だった。彼ら全員、まだまだ名前を挙げればキリがない。皆、逃げ場のない、そして不本意な人生の終わり方だった。ジェリー・マリガンがかつて僕に言った「ジャズは俺達から色んなものを引っこ抜いていきやがる」。何て痛々しい、でもそれが現実なんだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

17.He was so stricken by the injustices he experienced in the military during the forties that it affected him for the rest of his life彼は1949年代に軍隊で経験した不正にあまりにも打ちひしがれたのでそれは彼の残りの人生に影響を与えた:so+C+that節/関係詞・省略(so stricken by the injustices [that] he experienced that it affected) 21.Monk, who just became a recluse, lost his mindモンクはただの世捨て人になり正常な精神を失った:関係詞・非制限用法(Monk, who) 22.Columbia Records asking him to record Beatles tunesコロンビアレコード社が彼にビートルズの曲をいくつか録音するよう依頼した状態で:分詞構文(asking) 不定詞(to record) 

 

(64ページ) 

彼らが亡くなったのは、人生に向き合えず悪事に走ったからじゃない。戦ったものの凄まじさに、心身ともに焼き尽くされてしまったからだ。仕事の重圧、そして、彼らの業績の素晴らしさは誰の目にも明らかなのに、世間の心無い拒否反応が凄まじかったこと、これらに彼らは太刀打ちできなかった。ジョン・ルイスが、かつて僕に質問してきた「君はどうやってプレッシャーに対処しているのかね?」僕は笑ってごまかしたけれど、彼はこう言って僕に忠告してくれた「甘く見るな。君を壊しかねないから言っているんだ。チャーリー・パーカーにしたって誰にしたって、若い頃は皆、立派な向上心に燃えていたんだから」。 

(語句と文法:数字は行数) 

5.These men did not die because they couldn't face life and had to turn to one vice or another, but because they had to deal with something so intense that it burned them upこの人々は人生に向き合うことが出来ずあれこれと犯罪に走ったから死んだのではなく彼らはあまりにも根を詰めて物事に対処しなくてはならなかったのでそれらが彼らを焼き尽くしてしまったからだ:not A but B (not die but because) so+C+that節(so intense that) 

 

こういったミュージシャン達が、自分達とその音楽に向けられた拒否反応について、語り感じたことの中には、大切なことがある。それは実際にあった話であり、ジャズが届けるものに立ちはだかるものだ。スコット・ジョプリンの時代から、バードやデューク・エリントンの時代を経て、今日に至るまで、僕達は様々な力と戦い続けている。その力とは個人のだったり組織のだったりするけれど、その敵意の矛先は、ジャズの真相、つまり、アメリカの黒人に付きまとう真相、その経験が実際どんなものだったかに向けられている。この国の根底にある血にまみれた苦難と、注目すべきそこからの立ち直り、アメリカ全体を包み込んでしまう民主的な合意、これらは、長年拘束されていた天才のなせる業だ。アメリカの事なら何でも知っているフィル・シャープによると、アメリカを一つにまとめた最初の国民的娯楽は、ジャズであり、野球ではなかったんだって。 

(語句と文法:数字は行数) 

14.There's something in what all those musicians said and felt about the opposition to them and their musicこれらのミュージシャン達全員が彼らと彼らの音楽に対する反意対して言ったり感じたりしたことには何かがある関係詞(what) 

 

65ページ 

もしジャズがこういったことの真相を語る、というなら、アメリカは黒人はどうなんだろう?アメリカ社会がすべきこと、できることは何か?公民権運動をしたじゃないか、と言うのは簡単。では黒人は?芸術分野の支援など何もしていない彼らには、変化など起こせるのか?多くの人々にとっては、ジャズの真相から目を背けたり、「ッジャズなんて滅びる運命だ」と決めつけて根本を攻撃する、こちらの方が楽だ。あるアメリカの新聞は、こんなことさえ公然と記事に載せた「ジャズの大きな革新は、今やヨーロッパに全て委ねられている」。やれやれ、現実逃避しよう、というわけだ。ジャズに対する見方を変えてしまったり、滅びるようなことをしようというなら、それは、国家が黒人に対してしでかした犯罪的行為の罪を軽減してしまうことにつながる。 

(語句と文法:数字は行数) 

9.One American newspaper even went so far as to proclaim:”The great innovations in jazz now all come from Europe.”あるアメリカの新聞は「ジャズにおける大きなイノベーションは今やヨーロッパからすべて来ている」などと報じるところまで来てしまっている:不定詞・特殊構文(so far as to proclaim) 

 

 

そんなことをしたら、アメリカが抱える大きな問題の解決から、また一歩後退してしまうだけだ。どうすれば国民が一つにまとまるか?過去のことも大方背負って共に歩んでゆくには、どうすればいいのか?先人達を見てみよう。「Jewish Daily Forward」という新聞の、1919年の記事:ジェームス・リース・ヨーロッパのニューヨーク凱旋パレードが5番街で行われたことを報じたものだ。第1次世界大戦でのアフリカ系アメリカ人の大活躍への感謝から実施されたものだ。ベニー・グッドマンの1938年のカーネギーホールでのコンサート:白人の彼は、カウント・ベイシー楽団とデューク・エリントン楽団の黒人メンバー達と共演した。デューク・エリントン作曲の「New World A-Comin」(新世界の到来)。ルイ・アームストロングは黒人中心の彼のバンド「オールスターズ」に、白人トロンボーン奏者のジャック・ティーガーデンを起用した。アメリカの大半が分断社会だった頃にね。こういう思いを込めた作品は、デュークの曲の他にもある。コルトレーンの「至上の愛」、チャールス・ミンガスの「Fables of Faubus」(フォーバスの物語)、マックス・ローチの「Freedom Now Suite」(組曲)、ソニー・ロリンズの「Freedom Suite」(組曲)、デーブ・ブルーベックの「リアル・アンバサダーズ」などだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

20.等That's what節 それが~だ:関係詞 

 

(66ページ) 

さて、アントニオ君、君が理解すべきなのは、こういったジャズの真相、君が認識すべきなのは、こういたジャズに対する逆風の理由と、その逆風に懸命に対抗してきているミュージシャン達の戦う理由ですよ。これを理解し自分の糧にすることが出来れば、ジャズとの距離はうんと狭まるだろう。でも出来なければ、そもそも逆風の存在を感じ取れないなら、先人達のメッセージに興味がわかないなら、現実味が無いと思うなら、君は一生答えは分からないだろう。世間のあらゆる不条理に疑問を投げかけ、君が見つけようとする真相中の真相を追求すること。これ以外に道はない!という所まで君の気持ちを持ってゆかねばならない。思い上がりの心を通り過ぎて、自分のサウンドを愛する心を持つこと。そうすれば必ず、サウンドにそれは出てくる。そして音楽のソウルの、そのまた中心に君のいるべき場所を見出し、「一貫して存在する美しさ」の一つに手が届くだろう。君以外の人間は何もしてやれない。外野で怒ったり喜んだりするだけさ。 

(語句と文法:数字は行数) 

7.And why musicians have fought so hard to counter that oppositionそしてなぜミュージシャン達がその反意に一生懸命対抗したか:関係詞(why) 現在完了(have fought)  

 

 

アイルランドの大詩人イェーツ一節夜明けそしてろうそくは尽きぬ 

あ、もう朝の6時だ・・・。 

 

 

次回 第10回は、 6.「門番は誰が」 (2003年8月14日) の前半を見てゆきます.