【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む  第3回

「To a Young Jazz Musician」を読む  第3回 

 

第3回:1.謙虚であること 2003年6月4日 

 

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君の好きなミュージシャンについて話そう。チャーリー・パーカーのことだ。チャーリー・パーカーは、よく「ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック」で、錚々たるミュージシャン達と演奏を披露していた。その時はいつも、他のプレーヤー達は、彼のバックで耳障りなリフを掻き鳴らしたものだった。彼はそれを嫌がったけれど、とにかく他のプレーヤー達はそうしていた。なぜか?多分、彼らは無意識に、演奏に拒否反応が起きてしまったんだ。ある種、追い立てられているような不安な気持ちを、掻き立てられたのだろう。彼の演奏がもたらす重圧とは、付き合いたくなかった。別に意図的に、「偉そうに吹きまくりやがって。このリフで追い出してやろうぜ」などと思ったわけではない。多分それは、本物の天才と共演することのプレッシャーが、そうさせたのだろう。 

(語句・文法:数字は行数) 

5.Whenever Charlie Parker used to play Jazz at the Philharmonic with other all-star musicians, they would always play these obnoxious riffs behind himチャーリー・パーカーが「ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック」で錚々たるミュージシャン達と演奏をしていた頃はいつもきまって、彼らはよくこれらの不快なリフを彼の後ろで演奏したものだった:過去の習慣(used to play would always play) 10.They didn't want to deal with the weight and power of what he played彼らは彼の演奏することの重圧とパワーに対処したくなかった:関係詞(what he played) 

 

パーカーの音楽は、独特の内容を持っていた。アメリカ中西部にそのルーツを持つ音楽で、カンザスシティーブルースと呼ばれている。そしてメロディの速弾きのすごさ、テクニックは、完璧で明確、シャッフルリズムの演奏の仕方は、サックス奏者の大御所・レスター・ヤングとは全く異なっていた。バード(チャーリー・パーカー)は偉大なミュージシャンだったし、音楽の考え方は独特のものだったけれど、演奏内容や方向性は、明快だった。チャーリー・パーカーが初期に音楽の素材として、ブルース、アメリカの流行歌、そしてこの作品形式をを用いた自作のモチーフを数多く使ったのは、このためだったんだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

21.That's why so much of Charlie Parker's early material is the blues, the American popular song, and originals that have that song formそれが、チャーリー・パーカー の初期の音楽の素材が、ブルースや、アメリカの流行歌や、その作品形式を持つ自作の素材である理由だ:関係詞(That's why) 

 

しかしある時点から、こういった根底にあるものは、彼の後に続く者達にとっては、どうでもいいものになってしまったんだ。何と説明したらいいだろう。、そう、例えば何十万円ものスーツを着ている人がいるとしよう。どうしても、その人よりもスーツの方に目が行ってしまうだろう。チャーリー・パーカーの表面上のスタイルは、指回しの速さだったし、そして、どうしてもそちらに耳が行ってしまうくらいだった。その内側にあって、洗練された演奏が求められる、ソウルフルなメロディ、ブルース、あの独特なスウィング、その他のごまかしのない表現の数々といったものが、かすんでしまった。わかるかな?耳を奪われるような指回しに、本当に耳を奪われてしまった、というわけだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

[p.9,1]you tend to look at the suit and not the person.君はその人物ではなくスーツを見る傾向にある:不定詞(to look) 5.other earthy elements required to successfully carry that level of sophistication were not as apparentそのレベルの洗練さを伝えるために必要なその他の素朴な要素は、同じく明確とはいかない:過去分詞(required) 不定詞(to carry) 

 

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根底にあるものが失われてしまったら、新しいものを生み出すことは不可能になってしまう。せいぜい、全然違う意味を持つ、別の形のものしか作れないのが関の山だ。この手紙でここまでイノベーションということを書いてきたけれど、今の世の中これだけ才能のある人達が沢山出てきていることを考えると、僕達は聴くべきものが、まだまだ沢山ある。若手のジャズミュージシャン達には、アメリカ音楽という大地の、深いところまで潜ってもらいたい。そこには、糧となるものが沢山埋まっているからね。パーカーやルイ・アームストロング、あるいはエロール・ガーナ―のやり方を上っ面だけ真似しても、人々を感動させることはできない。もう亡くなってしまったけれど、大作曲家のジョン・ルイスが、僕に一度こんなことを教えてくれた。彼はよく、チャーリー・パーカーのライブを聴きに行くと、会場では、ありとあらゆる人達が、演奏を聞き入っていたそうだ。港で働く人々、お巡りさん達、皆、彼のサウンドに心を動かされていた。ルイスは家路を急いでいた処で、たまたまクラブをちょこっと覗いてみようかな、くらいの気分だったが、チャーリー・パーカーの演奏があまりにもすごくて、結局そこに居座ってしまったそうだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

8.it becomes impossible to give birth to new things新しいことに命を吹き込むことは不可能になる:仮主語(it becomes) 不定詞(to give) 11.we don't hear as much as we should, given the mountains of talents out hereここに山ほどの才能があることを鑑みると、私達は聴くべき量を聴いていない:分詞構文(given the mountain) 13.We need jazz youth to go deeper into the American soil, where all the minerals and nutrients congregate.私達はジャズに取り組む若手にアメリカの大地のより深いところへ行ってもらう必要がある。そこには全てのミネラルと栄養が集まっている:関係詞・非制限用法(soil, where) 17.he would go to hear Charlie Parker and there would be all types of people listening彼はよくチャーリー・パーカーの演奏を聴きに行ったものだった。そしてそこではあらゆるタイプの人々が演奏を聴いていた:過去の習慣(would) 現在分詞(people listening)  

  

チャーリー・パーカーについて教えるとなるとそこがポイントだこの周りとの関係を彼にもたらしたのは何か彼の演奏にこんな力を与えたのは何かそれをおぼえれば、あるいは、その一部分でも頭に入れば、合格だ。耳を奪うようなスタイルなんて、後回しにすればいい。パーカーが台頭してから後、演奏は中身よりもスタイル、目的よりも慣行、という時代が来た。「慣行」とは、「みんながやっているか・・・」とうことだし、音楽の形式が持つ本来の目的を考えて、それを実行に移す、ということとは、一緒くたにしてはいけない。例えばチャーリー・パーカーが台頭してから後、皆、自分の楽器で彼のメロディを演奏しようとし始めた。トロンボーン奏者、ベーシスト、ピアニスト、皆、チャーリー・パーカーがサックスでしたことを、自分の楽器でやってみたくなった。実際、そのスタイルで多くのピアニスト達は素晴らしい演奏をした。でも、ピアノの最大の強みは、複数のメロディを同時に弾き鳴らすことだろう。それだったら、チャーリー・パーカーが、サックスという単音楽器で聞かせていたから、という理由で、ピアニスト達はもう誰も両手を広げて鍵盤を弾かなくなるのだろうか。あるいは、ニューオーリンズジャズの、3本の管楽器を使った対位法にしても、チャーリー・パーカーがその作曲法を用いなかったから、という理由で、何の値打もなくなってしまうのだろうか。あるいは、時代遅れ、と言われてしまうのだろうか。わかるかな?物事のある部分を、それが全てだ、と言わんばかりに、何も考えずに追従していることは問題だ、ということが。自分は、ただの野次馬の一人か、それともミュージシャンか、よく考えることだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

23.that's what we should focus onそれは私達が焦点を当てるべきものだ:関係詞(what we) 25.You need to evoke that or some portion of it to get a good grade良い成績を取るためには、それもしくはその一部を頭の中に呼び起こす必要がある:不定詞(to evoke to get) [p.10,5]everybody started trying to play his melodies on their instruments皆、自分の楽器で彼のメロディを弾こうとし始めた:動名詞(trying) 不定詞(to play) 10.the capacity to voice separate melodies simultaneously分離している複数のメロディを同時に音にする能力:不定詞(to voice) 

 

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年齢を重ねてゆくにつれて、一番大変になってくるのが、自分のことをしっかりと自覚する、ということだ。僕達ミュージシャン達の場合で言うなら、君が考える以上に難しいことなんだ。自分は何を演奏するのか、自分の演奏はこれからどう進化してゆくのか、他のプレーヤー達とどう演奏するか。チャーリー・パーカーのバックで演奏していた、あのスタープレーヤー達と全く同じように、耳障りなリフを弾き鳴らすのか。ある大物プレーヤーが言っていた「バード(チャーリー・パーカー)の邪魔をしてやれ」「演奏をメチャクチャにしてやれ」とね。まず、自分のことを良く知ること。そして、それができたかどうかを最初に試されるのが、謙虚さがあるかどうか、なんだ。本当の意味での謙虚さ。自分のことをじっと見つめれば、きっとこう言ってしまうはず「やれやれ、もうこれ以上、下手な自分はイヤだ。上手になりたいよ」とね。自分が謙虚さを身に付けるのに、僕は君にどうこうするわけではないし、君の友人達だって、君の彼女だって、何をするわけではない。世の中、謙虚さというものが、確かに足りないと思うよ。 

(語句・文法:数字は行数) 

19.self-knowledge becomes one of the hardest things to acquire自分に関する知識は身に付けるのに最も困難なものの一つになる:不定詞(to acquire) 20.it's more difficult than you think - to know what you will play自分は何を演奏しようとしているのかを知ることは君が考えるより難しいことだ:仮主語(it's more difficult) 不定詞(to know) 関係詞(what you will play) 22.Much like those cats playing with Bird, quick to riffバードと一緒に演奏していたあの演奏家達ともろに同じように、速やかにリフを演奏する  

 

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その人に本当の意味での謙虚さがあるかどうか、見極める方法を君は知っているかい?僕は、ひとつはこれだろう、という単純な方法を知っている。人は、常に周りを観察し、人の話をよく聴くからこそ、謙虚さに磨きがかかってゆく。「自分は分かっている」という気持ちなど、持ち合わせてはいないんだ。何百人、もしかしたら何千人という、僕がこれまでに一緒に仕事をしたことのあるミュージシャン達のうち、本当にこの人は成長し続けている、と僕が見込んだのは、8人か9人位しかいない。それは、この20~25年間の話だ。彼らが15歳の時とかその位の頃に音を聞いて、「これは信じ難い優秀なヤツだ」と思う。そして人生のありとあらゆる試練と対峙して、そして彼らが25・26歳位になる頃に音を聞いて、僕が思ってしまうことと言いうと「何があったの?あれだけの能力・天性・創造力を持っていたのに、10年経ってこの程度に終わっているのか?」世の中本当に厳しいと思うよ。 

4.Do you know how you can tell when someone is truly humble?ある人が本当に謙虚であるかどうか当てるにはどうしたらいいか君は知っているか?:間接疑問文(Do you know how you) 8.Of the hundreds, perhaps thousands, of musicians that I've worked with, I've seen true, continuous development in eight or nine私が一緒に仕事をした何百人、多分何千人ものミュージシャン達のうち、私はそのうちの8人か9人の中に本当の継続的な発展を見ている:関係詞(musicians that) 現在完了(I've work I've seen)  

 

大事なことが分かっただろう、アンソニー。何度でもいうが、物事を学ぶためには、そして学ぶことを好きになるためには、謙虚な気持ちに磨きをかけなくてはいけない。謙虚さは、横柄という心の目隠しをぶっ壊す。だから学ぶ気持ちが生まれる。そうすれば、何もしなくても、真実は自ずと解き明かされてゆく。横柄さで、自分の足を自分で引っ張らないこと。君なら気付くはずだ。全ては君自身の問題だ。学ぶ気持ちが、生まれるのも死んでしまうのも、学校も僕も関係ない。君を鍛えるその主役は、君自身でなければならない。それが飲み込めれば、「学ぶ」とは、「目標達成のための必須条件を解明すること」だとわかるかず。くどいようだが、自分の面倒を自分で見る大切さを、僕は君に分かってもらいたいんだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

18.Understand something, Anthony大事なことがわかっただろう、アンソニー:somethingの様々な意味(ここでは「価値のあるもの」:例Really something else!こいつは本当にすごいぜ) 19.but you have to develop the requisite humility to learn, to love to learnしかし君は物事を学ぶため、そして学ぶことを愛するためには、必要な謙虚さを発展させなければならない:不定詞(to learn to love to learn) 21.it beats back the arrogance that puts blinders onそれは目隠しをかぶせる横柄さを撃退する:関係詞(that puts) [p12,1]you'll understand that learning means figuring out what you need to do to get where you want to be学ぶとは君がなりたいものを手に入れるために君がする必要があることを解明することだと君は理解するだろう:動名詞(learning means figuring out) 関係詞(what you where you) 不定詞(to do to get to be) 3.I have to make you understand the importance of your personal involvement in your own growth and development君自身の成長と発展に君自身が関わることの重要性を君に理解させなければならない:使役動詞+O+原型不定詞(make you understand) 

 

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授業に来ない人たちがいる本当は学校に行きたくないんだでもそんなことはお先生にも関係のないことだ時間やチャンスを失うのは君自身なのだからこれが仕事だったらどうなるか午前9時に出社するように言われていたのに、あるいは、金曜日までには書類を提出するように言われていたのに、それをしない。そしたら会社は君を辞めさせる。会社にしてみれば、「なぜ提示に出社しないのか」と聞く気はないからだ。裏切り行為をされて喪失感を感じるのは、君の両親とか、両親並に君を思ってくれるような人々くらいだろう。 

(語句・文法:数字は行数) 

8.What if the commitment was a job?もしその約束が仕事だったらどうなるか?:仮定法過去(What if the commitment was) 9.You might have been told to show up at 9:00 A. M.君は午前9時に出社せよと言われていたかもしれない:仮定法過去完了(might have been) 不定詞(to show) 13.people who love you with such intensity that they feel a sense of personal loss when you bullshit君のことを大変な熱意で愛するので君がしてはいけないことをしたときに君に対して喪失感を感じてしまうほどの人々:関係詞(who love) such~that S+Vとても~なのでSはVする(such intensity that they feel)  

 

実生活ではそうはいかない。ジャズミュージシャンとしてやっていくのも同じ。他人は君の事情などわからないし、気にも留めない。彼らは苦労して稼いだ自分達のお金は、自分達の聴きたい音楽を聴きに行くことに使いたいんんだ。「私のために時間を割いてでも聴きに来たい、と人に思わせるような刺激的な演奏ができるようになるために、この難しい曲の弾き方を身に付けて、音色に磨きをかける、それをやったら辛くて死んじゃうかな?私って結局何をしたいんだろう?人に生きる喜びを感じさせるような「何か」を、私って持っているのかな?」その答えは、自分で責任をもって出さないといけない。 

(語句・文法:数字は行数) 

17.They spend hard-earned money to go out and enjoy some music that they want to hear彼らは自分達が聞きたい音楽を楽しみに行くために苦労して稼いだお金を使う:不定詞(to go out to hear) 関係詞(that they want) 18.it's incumbent upon you to figure out解き明かすことは君の責任だ:仮主語(it's incumbent) 不定詞(to figure out) 19.Will it kill me to learn how to play this difficult musicこの難しい曲の演奏の仕方を身に付けることは私を殺すだろうか:仮主語(it kill) 不定詞(to learn) 疑問詞+不定詞(how to play) 20.I can play something provocative enough for people to want to spend their time listening to me?私の演奏を聴こうと時間を費やしたいと人々が思ってくれるくらい十分に刺激的な何かを私は演奏することができる:~する位十分(enough to want) 分詞構文(listening to me) 22.What do I have that I can present to people that will make them feel better about being alive?人々に生きることをよりよく感じさせるための、私が彼らに提示できる、私が持っているものは何だ?:関係詞(that I can that will) 使役動詞+O+原型不定詞(make them feel) 動名詞(being alive) 

 

これを実行するのは大変だ。この道を行くのは大変だ。物事に敬意を払い、自分の決意を貫くことが必要だ。そしてそれを可能にするのが、謙虚さだ。よく聞いてほしい。ロートルだろうと、君のような19歳の人間だろうと、さっきの話に出てきたメイン州の高校生達だろうと、ジャズミュージシャンとして、皆やるべきことは同じ。まともな大人としての物事への取り組みだ。真剣に向き合うこと。だって、その「やるべきこと」も、君に対して真剣に向き合ってくるのだから。 

スウィングの精神でね。 

 

 

次回、第4回は、2. A  Human Thing(人間らしさ) 2003年6月18日の、前半部分を見てゆきます。