【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む  第4回

第4回:2.人間らしさ 2003年6月18日 

 

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親愛なるアンソニー 

 

君に伝えなければいけないことが、頭の中に沢山浮かんでいるところだ。今日は、沢山書いてゆこうと思う。名人・チャーリー・パーカーにまつわる、更に多くの教えや、僕自身のミュージシャンとして生きてきた中からの話、それから今日は、Pで始まる3つの単語 - 辛抱すること(patience)、粘り強くあること(persistence)、そして建設的に物を生み出す力のこと(productivity)- について。ジャズを上手に演奏しようとするなら、勿論、手紙を書く時も、この3つの単語については、しっかりとつかんでおかないといけない。だから、僕の手紙を書くペースが、君よりノロマだとしても、イライラしないこと。バスでの移動やサウンドチェック、そして本番の合間を見て、手紙を取り出しては2・3行ずつでも君宛てに書くことを約束するよ。君が人生を満喫したい気持ちは分かっているよ。だから君が知っておくべきことを、いくつか君に示してもいいかもしれない、と思っているんだ。面倒なものの言い方はしない。君と僕との間で、いくつか思うことを、行ったり来たりやり取りしよう。形式的な物の言い方や威圧的な態度は、全てありえないこと。なぜなら、そう言い方や態度を取らないことが、ジャズの作り方だからさ。人生のこと、それから音楽のことについて、僕の思いを伝えてゆくし、なぜなら、人生のことも音楽のことも、この二つは結局同じことなんだ。ところで話は変わるけれど、ニューヨークに来たら僕の家を訪ねてもいいか、君は知りたがっていたよね。勿論OKさ。我が家はいつでも人でいっぱいだ。僕は戻る時は片付けを皆でするから。そうそう、前もって電話をかけるようなことはしないこと。ふらりと来るように。でないと僕には会えない、と思っていてくれ。 

(語句・文法:数字は行数) 

1.I've got a lot on my mind that needs passing to you私は君に渡すことが必要な多くのものが頭に浮かんだところだ:現在完了(I've got) 関係詞(that needs) 動名詞(passing) 6.you'll need to hold on to all three of those words to play jazz well - not to mention writing letters君はジャズを演奏するために、手紙を書くことは言うまでもなく、これら3つの単語をしっかりと抑える必要が出てくるだろう:不定詞(need to hold to play) 動名詞(writing) 7.So don't get worked upだから頭に血を登らせるな:過去分詞(get worked up) (p.16,1) May as well show you some of the things you need to know君が知る必要のあることのいくつかを君に示してもいいかもしれない:仮定法(may as well) 関係詞・省略(the things [that] you need) 不定詞(to know)  

 

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では、これら3つのPで始まる単語について話そう。まずは何と言っても、辛抱(patience)だ。辛抱があれば、立ちはだかる多くのドアを通って、その中へと入ってゆける。辛抱は、君自身の成長曲線を描く上で欠かせない。仲間のミュージシャン達とやってゆく上でも必要だ。彼らの多くは真剣味が足りないだろうから。批評家達に対しても、辛抱。芸術に無関心な友達にも辛抱。ほらね、こうして見るとジャズでは他人との関わりが不可欠なんだ。自分の好きなペースで自分のことに夢中になってみたり、自己陶酔になったりなど、ありえないことだ。ジャズは、音楽を通した他人とのやりとりだからだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

13.you need patience with your fellow musicians, many of whom will be less than serious君は君の仲間のミュージシャン達に対して辛抱を必要とする。彼らの多くは真剣味に足りないであろう:関係詞・非制限用法(musicians, many of whom will be) 15.With friends who are uninterested in any artいかなる芸術にも興味を示さない友人達に対して:関係詞(friends who are) 16.You can't be as self-involved and narcissistic as you want to be, because jazz is your musical interaction with others君は自分がそうでありたいと思う程に自分のことに夢中になったり自己陶酔になったりすることはできない。なぜならジャズは君と他の人との音楽的なやりとりだからだ:禁止(can't be) 同等比較(be as self-involved and narcissistic as you want to be) 

 

粘り強さ(persistence)。ジャズを演奏する、ということは、自分を信じられない気持ちと、様々な試練に満ちた人生だ。それは決して消えはしない。ただ形を変えてゆくだけ。だからこそ、粘り強さは必要なんだ。この道を一旦選んだら、そこで生きてゆくことになる。決して楽にはならない。人気が上がろうが、お金を稼ごうが、関係ない。なぜなら、何かを生み出すということ、そのためのテンションを保つこと、これはお金では買えないし、誰かに励ましてもらうこともできない。プレッシャーは君を押し潰し続ける。粘り強さがあれば、押し返すことができる。 

(語句・文法:数字は行数) 

19.playing jazz is a life replete with self-doubt and difficulties that never go away - they just changeジャズを演奏することは決して消えない、単に変化する自己疑念と困難で満ちている人生だ:形容詞の後置修飾(a life replete with) 関係詞(that never go) 23.the act of creation and remaining invigorated to create can't be purchased or hyped創作という行為と創造するために活気を保つことは購入されることやあおられたりすることはできない:動名詞(remaining) 過去分詞(invigorated) 不定詞(to create) [p.17,2]Persistence helps you push back辛抱強さは君を押し戻す手助けをしてくれる:help+O+原型不定詞(helps you push) 

 

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建設的なこと(productive)。今の取り組みは、未来にモノをいう。僕は故郷のルイジアナ州ケナーにいたころ、フットボールを一緒にやった友人が一人いる。僕達のチーム仲間は、試合前になると、移動車の中で、試合に臨んでの大口をたたき合っていたものだった。しかし、この友人だけは、チームの誰かがミスをやらかすまでは、じっとしていた。ボールを落としたり、反則の旗を降られたり、相手のパスを奪い損ねたり、タックルに失敗したりして、チームに迷惑をかけたとする。するとその友人は、ベンチへゆっくりと歩み寄り、下をうつむいているそいつのヘルメットを覗きこんで、思い切り大きな声でこう叫んだ「クヤシー!今に見てろ!」すると僕達は笑ったものだった。ミスをやらかした気まずさを、打ち壊してくれたからね。でもこの友人は、こうすることでミスをした仲間に、こう気づかせたんだ:立ち直れ、自分で取り返せ、今やれ、お前ならできるだろう、とね。分かるだろう。人生においても、いつでもあることだ。ソロで間違える。気まずい人間関係を引き起こしてしまう。そうしたらどう立て直すか。「今に見ていろ!」何があっても建設的であり続けること。 

(語句・文法:数字は行数) 

3.What you do is what you will do君がいますることは君が将来することだ:関係詞(what you) 4.I had a friend I played football with私はフットボールを一緒にプレーした友人が一人いた:関係詞・省略(a friend [whom] I played) 5.Before a game we would all be in the car braggin' and talkin' about what we were gonna do試合前、私達は全員車の中に居てその後行うことについて自慢したり話をしたりしたものだった:過去の習慣(we would) 分詞構文(braggin' and talkin') 関係詞(what we were) 12.it would break the tension after you'd messed upそれは君が物事を台無しにしてしまった後張りつめた空気を壊すのだった:過去の習慣(would break) 過去完了(you had messed up) 17.Continue to produce no matter what何があっても創り続けろ:不定詞(to produce) 関係詞(no matter what =whatever) 

 

ニューヨークへ来てジャズミュージシャンとしてやってゆこうと思うなら、多少の失敗は覚悟しておくことだ。僕がニューヨークへ進出した時のことは、今でも忘れないよ。既に前評判が広がっていた。「ニューオーリンズから吹ける子が来ているぞ。ここへきてジャズを演奏するってさ」僕はハーレムのレッド・ルースターへジャムセッションをしに来ていた。一緒に来ていたトランペット吹きが一人いて、バッキー・ソープと言った。当時活躍中の人だった。そしてトム・ブラウンが、このジャムセッションにいた。トム・ブラウンは既に発表の「ファンキン・フォー・ジャマイカ」がヒットしていた。僕は思っていた「ふざけた演奏だ。素人が趣味で吹いているようなもんだ。リモコン機を飛ばして遊ぶようなマネを、ここでしている。これではとてもダメだ。ここでビシッと決めてやろう」そして、レッド・ルースターの他のプレーヤー達、僕より年上のプレーヤー達も、同じことを後で口にすることになった。当時僕は17歳だったんだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

19.Coming to New York to become a jazz musician you'd better be prepared to drop a few footballニューヨークへジャズミュージシャンになるために来たのなら、君は多少の失敗をすることに備えておくべきだ:分詞構文(Coming to New York) 22.Words had spreadうわさが既に広がっていた:過去完了(had spread) 22.There's a cat from New Orleans that can playここに演奏ができるニューオーリンズ出身のジャズ好きがいる:関係詞(that can play) [p.18,4]He's out here piloting airplanes and shit彼は模型飛行機を操縦したりくだらないことをしたりしながらここにいる:分詞構文(piloting)  

 

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さてレッド・ルースター中へ入ってゆくと共演者達が言った「これがニューオーリンズの名人さんか!ウチらのダサい曲をビシッと引き締めてくれることになっている。それじゃ、トム・ブラウンと一緒にやってもらおう。」僕は自分の楽器を取り出した。そして、・・・あろうことか、僕は彼に散々に打ち負かされてしまったんだ。演奏を終えると、彼はこんな風に言いたそうに僕を見つめた「君、ちゃんとやれるんじゃなかったの?」そして、僕より年上の共演者達の一人が、演奏前、僕の背中をしっかり押してくれた人達の一人が、やれやれと首を振ってこう言った「使えるヤツだって言うから乗せてやったのに、かんべんしてくれよ。」 

(語句・文法:数字は行数) 

12.Then he looked at me as if to say “You the kid that's supposed to be straightening this shit out?そして彼はこう言いたそうに私をじっと見た君はこのひどさをちゃんとしようとする子ではなかったのか?」:仮定法・反実仮想(as if to say) 関係詞(that's) 不定詞(to be straightening) 13.And one of the older cats who had just boosted me up before I got on the bandstand shook his headそして私が舞台に上がる前に私を元気づけてくれた年上の共演者の一人が首を振った:関係詞(who) 過去完了(had just boosted)  

 

しかし、これは僕にとってかけがえのない経験となった。僕が気付かされたこと、それは、自分の思い込みや見かけがどうか、は要らない、実際の姿をつかめ、ということだった。その時は、僕はトムに完敗したんだ。「ファンキー・フォー・ジャマイカ」にしろ、どの曲にしろ、僕がファンク音楽をどう思い込んでいようが、実際演奏が始まってしまえば、彼は僕の上を行っていた。僕は大切なことに気付かされた。 

(語句・文法:数字は行数) 

17.that let me know that it's not about what you thinkそれは私に、大事なことは君が考えることではないということを知らせてくれた:使役動詞+O+原型不定詞(let me know) 関係詞(what)  

 

別の時のこと。メル・ルイスのバンドに参加した時の話だ。その時も演奏前に同じようなことを囁かれた「この子がニューオーリンズからきた天才少年だ」彼は僕に、ラストナンバーまで吹かせなかった。そしたらラストに彼はD♭マイナーのシャッフルリズムの曲を、高らかに演奏し始めた。僕はD♭マイナーの曲なんて吹いたことがなかったし、だいいち、その曲自体、僕の知らないものだった。ひたすら醜態をさらした。 

(語句・文法:数字は行数) 

25.He made me wait until the last tune彼は私を最後の曲までずっと待たせた:使役動詞+O+原型不定詞(made me wait) [p.19,1]I had never played in the key of D-flat minor私は変ニ短調の曲をそれまで演奏したことがなかった:過去完了(had never played) 

 

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演奏後、誰も僕に話しかけてくれはしなかった。共演者達は楽器をケースに片づけて、ルイスは「まったく冗談じゃないよ」と言わんばかりに首を振った。これが僕に伝えられたメッセージ、というわけだ。悲しすぎてニューヨークに居られない。気持ちは沈んだ。自分が取り組むことは、全て、人生のかけがえのない瞬間、といつも思う傾向にあるものだからね。「1か月もたっていないのに打ちのめされた。この人と一緒に演奏する為にニューヨークへ来たのに。今では僕の顔すら見てくれない。」故郷のニューオーリンズでは、僕は評価されているんだ。そう思うと、ニューオーリンズへ戻りたくなった。しかしその時、僕はある旧友のことを思い出した「そら見ろ、バーカ!」41歳の今でも、当時の様なことがあると、この男のことを思い出す。だから僕は、翌朝D♭マイナーの練習に取り掛かったよ。 

(語句・文法:数字は行数) 

6.That was the message that was communicated to me: I' m too sad to be up here in New York.それが僕に伝えられたメッセージだった。僕は悲しすぎてここニューヨークに居られない:関係詞(that was) 否定表現(too sad to be) 7.you tend to see everything you do as life's crucial moment君は自分のすることは全て人生の逃れようのないことと見る傾向にある:不定詞(to see) 関係詞・省略(everything [that] you do) 11.And I'm coming from New Orleans, where I'm being celebratedそして僕はニューオーリンズ出身で、そこでは僕はチヤホヤされている:関係詞・非制限用法(New Orleans, where)  

 

このコンサートツアーに出かける前に、君と会話したことで、「道」について考えている。まずは、今乗っているツアーバスと、今後走る「行程」。それから君がジャズを学ぶために通ってゆく「道程」。その「道程」がどのようなものか、解き明かされなければいけない、と君は思い詰めているようだね。だって、最初の君からの手紙には質問がぎっしり詰め込まれているからね。まぁ、その好奇心は君にとってプラスに働くことにはなるけれど、壁にぶつかったときにフラストレーションがたまることになる。答えはいつも出てくる、とは限らない。なぜなら音楽を学ぶ上で、多くのことをしっかりと納得するためには、物事の全体像や背景を理解しようとすることが欠かせないからだ。君はいつも、意味とか形式とかを求めてくる。ここになぜこれがあるのか?これが作用する目的は何か?突き詰めてゆくと、君は自分の演奏には、目的を持たせたいと思っている、ということだ。ランダムに聞こえるものも、計算し尽くしてランダムに聞こえるようにしたい、と思っている。「あれ?!そんなつもりはなかったのに。大丈夫かな。」などというのは、君は嫌うだろう。物事を身に付けようと思うなら、分かっていないなどということは、ありえない。それで済まされるなら、名人達人はもっと沢山現れるだろうし、君も情報収集に走り回る必要はなくなるだろう。 

(語句・文法:数字は行数) 

19.the road you're walking down as you learn this art form君がこの芸術分野学ぶ際に歩き行く道:関係詞省略(the road [that] you're] 21.that curiosity will work for you, but guard against it driving you to frustrationその好奇心は君の役に立つが、それに対する障壁が君を欲求不満へと常に導く状態にある:分詞構文(driving) [p20,3]And those things that sound random, you want them to be random by designそして不規則に聞こえるそれらについて、君は計算されて不規則な状態であってほしいと思っている:関係詞(that) 5.That's not what I meantそれは私の意図することではない:関係詞(what) 

 

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君は僕に、チャーリー・パーカーの音楽が大好きでリスペクトしている、と言ったことがある。チャーリー・パーカーは物事に取り組む根っこの部分において、天才というべき人だったんだ。ありとあらゆる自分の抱える課題に向き合う上で、生きることの意味を考えていた。そして彼が自分に課した目標:技術の卓越さ、考察の迅速さ、表現の深さ、これらは常に「どうだ」と言わんばかりに突きつけられてくる。いことを教えてあげよう。君はミュージシャンとして成長するほど、チャーリー・パーカーへの理解も、そして彼の演奏の聞こえ方も、深まってゆくだろう。彼をもっと好きになるだろう。 

(語句・文法:数字は行数) 

9.You've told me of your love and reverence for Charlie Parker's music君は私にチャーリー・パーカーの音楽に対する愛と尊敬を話したことがある:現在完了(You've e told) 11.he had timeless insights into what it means to be alive彼は生きているとはどういう意味かということに対する永遠の洞察を持っていた:関係詞(what) 仮主語(it means) 不定詞(to be alive) 12.And he also set standards of technical excellence, a quickness of thought and depth of expression that will always challenge youそして彼はまた君に常に挑戦してくる技術の卓越さと思考の速さと表現の深さについての目標を設定した:関係詞(that) 

 

チャーリー・パーカーの演奏について、一番大事なことを教えよう。それは、君自身の物事に対する感性に自信を持て、ということだ。チャーリー・パーカーチャーリー・パーカーを演奏したのであって、ビーバップを演奏したのではない、ということだ。人はよく、彼はビーバップを演奏した、と言うけれど、彼は自分自身の音楽を表現したに過ぎない。ミュージシャンとして、君は自分が表現するものに、自信を持たなければならない。周りを見渡しても、答えは見つからない。誰も教えようがない。それこそが、チャーリー・パーカーの音楽の根本にある教えなんだ。自分らしく在ろう。デューク・エリントンはこのことについて、上手いことを言った「他人にとっての二の次になろうとするよりは、自分にとっては自分が一番大事、と考える方がマシだ。」その上で、バード(チャーリー・パーカー)のような人物の演奏を聴くことのパラドックスは、彼のパーソナリティーが持つ引き込む力の強さに、君がその方向へ持っていかれてしまうことだ。それでもなお、自分らしさを手に入れるためには、こうした強力なパーソナリティーを持つ演奏に沢山触れて、そして自分のやり方をしっかり持って、それを吸収しなくてはいけない。 

(語句・文法:数字は行数) 

18.Have confidence in how you feel about things君が物事に対して感じる方法に自信を持て:関係詞(how you feel) 23.How would anyone else know?他の誰が知るだろう?:反語(How?) 仮定法過去(would anyone else know) [p.21.2]his personality is so strong it pulls you in his direction彼の人となりはとても強いのでそれは君を彼の方向へ引っ張る:とても~なので・・・だ(so strong [that] it pulls) 

 

 

次回、第5回は、2. A  Human Thing(人間らしさ) 2003年6月18日の、後半部分を見てゆきます。