【英日対訳】ミュージシャン達の言葉what's in their mind

ミュージシャン達の言葉、書いたものを英日対訳で読んでゆきます。

「To a Young Jazz Musician」を読む はじめに

ウィントン・マルサリスの名著「To a Young Jazz Musician」を読んでゆきます。19歳の弟子「アンソニーAnthony」に、41歳の師匠ウィントンが宛てた、とする10通の手紙です。 

 

この本の献呈の辞は次のようになっています。 

 

To all the parents who take their kids to concerts that they don't necessarily like and then wait for the kids to get autograghs, lessons and whatever else. 

我が子を音楽会に連れて行っても、肝心の子供たちが大して喜んでくれず、出演者のサインだの、演奏のコツだのをねだっているのを、会が終わった後待っている、そんな親御さんたちに。 

 

また、献呈の辞に引き続き、こんな一言が添えられています。 

 

When you set out to make a dramatic statement ― make it. Deal with the fallout later. 

大きなことを言いたくなったら、言ってしまえばいい。うまくいかなかったら、その時なんとかすればいい。 

 

原書を入手してお読みください。 

To a Young Jazz Musician  Random House Trade Paperback Edition 

この本は次のような構成になっています。(ページ数・行数は原書) 

 

プロローグ:第一楽章(前頁) 

若きミュージシャン達、そして生きる意味、目的、そしてブルースの追求。その形式に深く入り込んでゆけば、それは君達自身のこと、そして人生のことについて教えてくれる。ジャズは、僕達の祖国アメリカの魂が持つ、真実の一面に語りかけてくる。そしてジャズは、人間としての君達の本当の姿に語りかけてくるだろう。 

 

1.謙虚であること:2003年6月4日(3ページ) 

自分自身のことを知ることは、一番難しいことの一つだ。そして、自分をコントロールできるかどうかの最初の試験は、謙虚さがあるかどうかだ。謙虚さのある人は、後々、より大きな成長や発展が見られるようになる。謙虚さ:それは物事を学ぶ上での真髄。ミュージシャンが求める真実の世界への扉。 

 

2.人間らしさ:2003年6月18日(15ページ) 

君も、チャーリー・パーカーも、そして僕もそうだが、ジャズは、僕達の内側にある最高のものを表出してくれる。人間らしさ、というものだ。デューク・エリントンは、このことについて上手いことを言った。「他人にとっての二の次になろうとするよりは、自分にとっては自分が一番大事、と考える方がマシだ。」音符は単なる覆うもの、外面。音符が言わんとすることに耳を傾けよう。きっと耳に入ってくる。 

 

3.ルールを語る、自由を歌う:2003年7月2日(31ページ) 

「型にはまりたくない。もっと磨いて、行き着くところを今より広げていくんだ」 

「おや、今より広げた行き着くところ、とは、何のこと?」 

すると彼は言葉が続かなくなってしまった。つまり、行き着くとこを広げる、と言っても、それもまた、はまってしまう型のことであり、今自分が置かれている「手近なところ」の「そのまた向こう側」と、その場所が限られてしまう。そんな物事のとらえ方を、彼自身がしてしまっている、ということに他ならないからだ。型にはまりたくない、という態度が、常に続くようになると、自由というものは、新たな足かせとなってしまう。 

 

4.ジャズを演奏する:2003年7月18日(41ページ) 

音楽の演奏をする上で、4つの土台が必須だ。音楽面での「語彙力」をつけること。サウンドにカリスマ性(人を強く惹きつける魅力)を持たせること。君だけの目標を幾つか定めること。そしてスウィングをモノにすること。ジャズの演奏に、スウィングは必須だ。時間というものの制約を受ける民主主義であり調和であるもの、それがスウィングと呼ばれるもの。 

 

5.自分の立ち位置に対しての思い上がり:2003年8月2日(55ページ) 

自分の真相から逃げてはいけない。鏡を見てみろ。君が世の中でいつも確かなものと思っていることを、鏡は全て打ち砕く。誰もが、自分にとっての真実だけしか認めたくないものだ。ジャズ音楽の持つ力は、君を君自身の根っこの奥深くへといざない、そことの結びつきを保ってくれる。自分の立ち位置に対しての思い上がりの心から抜け出し、音楽のサウンドを純粋に愛する心へと行き着いてほしい。そして、君が名人達人の音楽から聞き取った、形のない、一貫した美しさについて、君だけが手にする美しさというものを、今度は追い求めてゆくことだ。 

 

6.門番は誰が:2003年8月14日(67ページ) 

どうしてこの音楽(ジャズ)にある真相から逃げようとするのだろう。人種、ジャズ、そしてアメリカについての、へんてこな会話。僕達の文化は、歯止めの効かない堕落と共に、きちんとした知性の在り方の衰退を経験している。堕落の程度が大きくなると、これと戦う「勇敢さ」も、より高いレベルが求められてくる。何せ、その報酬が、割に合わないからだ。 

 

7.音楽とモラル:2003年8月31日(77ページ) 

君自身がミュージシャンとしての立場や在り様を明確に打ち出しておかねばならない文化が有る環境にいて、君が心にしっかりと抱く信念が、ある時不誠実さと衝突することになったら、どうなるか?スポンサーやプロモーション会社に、あるいは学者さん達に、ヘコヘコして、そして売れればいい、あるいは高い評価を論じてもらえればいい。そんなのよくある話だ。だって、その分の報酬や見返りがはっきりしている。でも、君自身の未熟さにすり寄ってしまったら、間違いなく根性が腐ってゆく。君が指回しが苦手だからといって、早い指回しの演奏を否定する。君がゆっくりの曲が演奏できないからと言って、バラードなんて演奏する価値はないと言う。転調が苦手だからといって、転調なんて時代遅れだと言う。自由な感じの流動的な表現形式に対応できないからと言って、それを否定する。これって、音楽にはモラルの概念がないから、起きてくる、というのが事の核心だと僕は思う。 

 

8.前へ動かすこと、新しい、新しいこと:2003年9月10日(89ページ) 

僕達の大半は、芸術を前へ動かすことはしない。僕達の挑戦は、独自の世界の創造にある。モダンジャズを教える上での核心にある、ひどく有害な誤った認識だ。 

 

9.大草原に独り立つ男:2003年9月22日(99ページ) 

僕達には治療してくれる人が必要だ。音楽と人生について話さなくっちゃ。だって結局は、この2つは一体だからね。全ては、君が文化を、どう治療してゆくかに回帰する。患者さんは一人ずつ診てゆこう。まずは君自身から。 

 

10.喜びに心は躍る:2003年9月28日(109ページ) 

友人達、バンドのメンバー達、男も女も、ツアーも - さて、何かが君に、この世の喜びをもたらすぞ。 

 

このサイトでは段落毎に 1.全訳 2.語句・文法事項の説明 を扱ってまいります。かなり高度な読解力が求められる難著ですが、挑戦してみましょう。 

 

アメリカで、最も影響力のあり、心温かく、そして才能にあふれるアーティストを、皆さんのメンターとして、お読みください。 

 

 

次回、第1回は、プロローグ 第一楽章の  を扱います。